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2023年10月 6日 (金)

フリーランス新法の立法趣旨

 ジュリストの最新号(1589号)の特集で「フリーランス法の検討」があり,その最初に4人連名での法律の概要に関する解説文が掲載されていました(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の概要」)。執筆分担ははっきりしていないのですが,内容は内閣官房,公正取引委員会,中小企業庁,厚生労働省ですりあわせた公式発表のようなものなのでしょう。
 そのなかの冒頭で,本法は,「フリーランスが個人で事業を行うという性質上,『組織』として事業を行う発注事業者との間の業務委託においては交渉力などに格差が生じやすいことに鑑み,フリーランスに業務委託を行う事業者に対して,最低限の規律を設けることにより,フリーランスに係る取引の適正化等を図ることを目的に制定された法律である」と書かれています(46頁)。ここでいう「個人」と「組織」の対置は,大臣答弁でもあらわれており,これがいわば契約の自由を修正して,フリーランスの取引に介入する根拠となっているようです。しかし,これは同法の目的規定にはなく,どうもあとから作った説明ではないかという疑問があります。1条の目的規定からは,「個人」の保護という要請はうかがえても,委託者側は「組織」だから義務を課してよいという説明が出てくる根拠は見いだせません。新法の制定で,最も要望が大きかった取引条件などの明示義務を定める3条は,「個人」対「個人」の取引を含むものであり,いきなり「個人」対「組織」の構図から外れてしまっています。この法律は「個人」対「組織」との間の交渉力格差に着目して制定されたものと考えるのは困難です。
 また特定受託事業者(フリーランス)として認められるためには,「従業員を使用しないもの」であることが必須の要件となっています(2条1項)。ところが,「本法における『従業員を使用』とは,『組織』としての実態があるかどうかを判断する基準となるものであるところ,組織としての実態があるものと認められるためには,ある程度継続的な雇用関係が前提となると考えられる。このため,労働者を雇用した場合であっても,短時間・短期間のような一時的な雇用であるなど,『組織』としての実態があると言えない場合には,そのような労働者は『従業員』に含まれず,本法の『従業員を使用』したものとは認められない」と解説されています。政府の説明では,どうも「従業員」として想定されているのは,雇用保険の加入資格がある人のようなのですが,人を継続的に使用していれば「組織」としての実態をもつことになり,そして個人のフリーランスとの関係で支配的な地位に立つということだとすると,相当無理な論理です。従業員という一般用語に近い概念を持ち出して,十分な根拠なく限定解釈することは,恣意的な感じもします。
 ビジネスガイドの次号の「キーワードからみた労働法」では,「フリーランス新法」というテーマをとりあげて,同法の内容を紹介しています。上記の「個人」と「組織」という構図に対する疑問は,そこでも書いていますので,参考にしてください。
 このほかにも,紙数の関係で「キーワードからみた労働法」では書けていませんが,フリーランス新法には,理論的にも,実務的にも,大きな問題点があります。そういう問題点を,すっ飛ばしたからこそ,制定にこぎつけることができともいえるのですが,研究者としては看過することができないものがあります。このことは,別の機会にしっかりと書きたいと思っています。

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