岸田減税に思う
岸田首相が,昨日,WBSに登場して,経済の成長を阻害しないようにすることが重要だと強調していて,減税はそのための手段ということでした。減税は税収が予想を上回ったため,物価高に苦しむ国民に還元するということのようです。実は所得税を最もきちんと納めているのは源泉徴収のある会社員です。とくに重い税負担を感じているのは,ある程度の収入があり,所得水準が税率20%に上がっていくくらいの層ではないでしょうか。この層の人たちは,富裕層とまでは言えなくても,かなりの税金を支払っており,還元政策には歓迎の声が上がるかもしれません。ただ,低所得者向けの給付金も同時に提供される予定です。ここが問題です。税金を支払っていないか,わずかしか支払っていない層にまで,金をばらまくのとセットの政策では,釈然としないものが残るでしょう。
もちろん,税制のあり方として,課税所得未満の人々に給付金(一種の負の所得税)を支給する「給付付き税額控除」というものはあります。そのような制度を設計しようというのなら,検討の余地がありますが,今回は選挙目当てに場当たり的にやっている感じです。国民は金をばらまけば喜ぶだろうというようにみえる政策は,おとなしく税金を払ってきた会社員からは反発を生むことになるでしょう。会社員は納税により国のために貢献していると考えて,税負担にも納得しているのです。しかし,ときの政権の選挙対策として税金が使われるとなると話は違います。
減税は,これまで(いわば受け身で)源泉徴収されてきた会社員の税意識を目覚めさせるかもしれません。まじめに働いて,ある程度稼げるようになって,でも所得税や住民税でかなり持っていかれるけれど,それも国民の義務だと自分に言い聞かせてきたサイレント・マジョリティの多くは,決して自民党の支持層ではありません。その層が本気で動くと,自民党政権はたちまち崩壊することになるでしょう。減税は経済政策として問題があるだけでなく,多くの会社員の感情としても逆効果であり,しかもそれが低所得者の給付とセットとなっていて,その財源も自分たちの支払った税金であるとなると,次の選挙では反与党に結集するかもしれません。この前の日曜の選挙結果には,その兆候が現れています。首相は,簡単には衆議院を解散できないでしょうね。
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