事業協同組合の使用者性
広義のフリーランスに対して,労働組合にこだわらなくても,中小企業等協同組合法に基づく事業者協同組合があるではないかという議論に,労働法学では,あまり良い反応がありません。事業協同組合は団体交渉をすることを想定している団体ではない,という疑問があるからでしょう。中小企業等協同組合法には,事業協同組合の行う事業のなかに,きちんと団体交渉(組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結。9条の2第1項6号)が含まれており,誠実交渉義務(「誠意をもつてその交渉に応ずるものとする」)も相手方に課されています(9条の2第12項)し,紛争調整手続も定められています(9条の2の2)。紛争調整手続の実効性は不明確であり,労働委員会の手続のようにはいかないでしょうし,救済内容も違うので,この点は問題として指摘することができるとしても,そもそも事業協同組合は,団体交渉をすることを目的としていないのだから,労働組合的なものとして位置づけるのは適切ではないという意見となるとやや疑問です。これは中小企業等協同組合法の明文の規定と抵触するからです。ただ,このような議論が出てくる背景には,事業協同組合は,もともと使用者団体としての適格性をめぐって議論をされていたことが関係しているのかもしれません。
かつて「合同労組の活動が盛んであったときに,企業横断的な統一交渉・協約の相手方として事業協同組合が注目された」ことがありました(東京大学労働法研究会『注釈労働組合法(下巻)』702頁)。実際,使用者団体としての協約能力という論点で,よく言及される土佐清水鰹節協同組合事件(高松高判1971年5月25日)は,まさに事業協同組合の事件でした。ただ,水産業協同組合法によるもので,同法では,水産加工業協同組合の事業について,「所属員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結」が挙げられているだけで(93条1項9号。上記事件の当時に,どのような規定があったかは確認できませんでした),団体交渉についてのその他の規定はないようなので,その点は事業協同組合と異なります。
フリーランスの問題の登場により,私たちは,使用者や労働者といった分類で考えていくことは適切でないという意識をもつべきなのかもしれません。労働者のように団体を結成して団体交渉を申し込むこともあれば,使用者のように団体を結成して,団体交渉に応じることもあるのです。同じ団体がその両方を担うこともあるでしょう。これからのフリーランスの事業協同組合は,そういう性格をもつものとなるのかもしれません。
ちなみにフリーランス新法は,業務を受託するフリーランスをサポートすることを目的とする法律ですが,3条の契約内容明示義務に関しては,フリーランスが委託者である場合にも課されます(法律上は,これは「業務委託事業者」の義務であり,これは「特定業務委託事業者」とは異なり,フリーランスに業務委託をする人という広い定義なので,委託側がフリーランスの場合も含むのです)。ここでもフリーラスは,サポートされる労働者的な立場だけでなく,責任を負う使用者的な立場ともなりうるのです。
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