そごう・西武労組のストライキ
バスケットは,日本が見事に勝ちました。まだまだ世界レベルでは強い国がたくさんありますが,とくに体格差で劣る日本の小柄な2人のポイントガード(富樫選手,河村選手)が,ときには大柄な選手をかいくぐってレイアップ(layup)シュートを,またときには外からの3ポイントシュートをして活躍する姿はとても頼もしいです。五輪での活躍も期待しましょう。
話は変わり,そごう・西武の労働組合のストライキが,8月31日に実施されました。私はギリギリで回避する可能性があるかなと思っていましたが,すでにスト権を確立しているので,組合としても何の成果もないままでは,引き下がることができなかったのでしょう。従業員に同情的な世論の後押しもあったような気がしました。実は,ビジネスガイド(日本法令)に連載中の「キーワードからみた労働法」の次号(10月号)では,このそごう・西武労働組合のスト権を確立したという話を受けて,「ストライキ」をテーマとしてとりあげて,その法的解説を行っています。最後の締めのところでは,労働組合側がストライキに突入することについては,慎重な判断が求められるとしたうえで,しかし経営側は労働組合をストライキの突入という状況に追い込まないようにすることが重要だという趣旨のことを書いています。ストライキは,本格的に実施すると,相手方の企業だけでなく,取引先など関係者にも大きな影響が及ぶことがあります。製造業における工場のストライキもそうでしょうが,多くの客を抱える百貨店のストライキは,その影響はいっそう大きいものとなるでしょう。ただ今回は,要求が実現するまで徹底的にストライキをするということではなく,最初から1日と決めていたようで,ストライキとしてはパンチの小さいものになりました。百貨店のストライキの難しさは,経営側に打撃を与えるためには,客を犠牲にしなければならないということであり,やりすぎると世間の支持を受けられなくなります。とはいえ,そこを意識しすぎると,中途半端なストライキになってしまいます。争議行為の落としどころはしばしば難しいものとなりますが,今回も,これで終わったのか,まだ続くのか,外部の人間にはわかりにくい状況です。
そもそもストライキは憲法上保障されている勤労者の権利なのですが,これまではあまり行使されてきませんでした。私はこの点に物足りなさを感じていて,拙著『雇用社会の25の疑問(第3版)』(2017年,弘文堂)の第5話「労働者には,どうしてストライキ権があるのか」で,スト先進国といえるイタリアと比較した議論などもしていたのですが,そういう立場からは,今回のストライキは前向きに評価すべきなのかもしれません。
ところで,今回は結局,セブン&アイ・ホールディングスは,そごう・西武の株式を予定どおり売却しました。新たな株主は,雇用は保障すると言っているようです。ただ,いずれにせよ,親会社であるセブン&アイ・ホールディングスから説明を受けたいというのが,労働組合の要求であり,それ自体は,親会社に法的な義務があるかどうかはともかく,私は理解できるものだと思っています。セブン&アイ・ホールディングスのような大企業が,伝統ある有名な百貨店の株式を取得し,そしてそれを売却したというのであり,そうした経済活動自体は自由に行ってよいとしても,その百貨店には多くの従業員や取引関係者などが関わっていることも考えると,こうしたステークホルダーのことを軽視した行動をすることは,企業の社会的責任という観点からは問題となってきます。大事なことは,株式売却などの経営判断はしてよいのですが,それをきちんとステークホルダーの納得がいくように説明することであり,直接雇用関係がない,子会社の従業員を組織する労働組合への説明もその一つなのだと思います。
もっとも売却が実行された以上,セブン&アイ・ホールディングスは,そごう・西武の従業員の雇用問題には,少なくとも形式的には決定力はないことになります。セブン&アイ・ホールディングスは,ストライキにも負けずに,初志貫徹したということで,経営者的には成功したことになるのかもしれませんが,失ったものも大きい気がします。
なお労働法の観点から気になるのは,ストライキで閉店した日,ストライキを実行した組合員の賃金はカットされるのは当然として(労働組合のスト資金などから補填はあるでしょう),その他の従業員の賃金はどうなったのか(争議行為不参加者の賃金請求権および休業手当請求権の存否),テナントで店舗を出しているが休業せざるを得なくなった企業の補償はどうなったのか,ということも気になります。ストライキを行った労働組合や組合員が,損害賠償責任が負うかどうかは,このストライキの正当性の有無にかかってきます(労働組合法8条。いわゆる民事免責の問題)。今回のストライキの争議行為としての正当性については,執筆当時の情報(7月末時点)を前提に,多少の分析はしていますので,関心のある方は,前述したビジネスガイドの最新号を参照してください。
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