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2023年9月 5日 (火)

『ハラスメント対応の実務必携Q&A』

 弁護士の岩出誠先生から,弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所編・岩出誠編集代表『ハラスメント対応の実務必携QA―多様なハラスメントの法規制から紛争解決まで』(民事法研究会)をお送りいただきました。いつも,どうもありがとうございます。ちょうどパワハラ関係の裁判例について調べる必要があったので,さっそく活用させてもらいました。この7月に出た経済産業省の性同一性障害の事件までフォローされていました。早いですね。いわゆるソジハラ(SOGIハラ)の判例という位置づけです。SOGIとは,Sexual Orientation Gender Identityの略語であり,LGBT理解増進法(「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」)が制定された今年は,ソジハラ対策という面でも大きな転換点になる年といえるでしょう。
 パワハラは,何がパワハラかよくわからないという問題があって,これは指針が出されていても,解決されていません。パワハラかどうかの認定は,明らかな逸脱行為の場合は別として,簡単ではないのです。ただパワハラかどうかの認定はともかく,従業員が主観的にもパワハラと感じる出来事が起きているのであれば(明らかに根拠のないものは除く),そこには経営上ないし組織上の問題があるとみるべきだと思います。前にWedgeにも書きましたが,パワハラは結局のところ企業風土の問題であり,経営側からすると,その組織体質が問われるのです。もちろん,ビッグモーターのような企業は,報道されているとおりであるとすると,これはもはや異なった社会規範や独自の法規範(?)の下で経営がなされているので,どうしようもないのですが,とはいえ,こうした企業は,そのうち市場からの退場を余儀なくされるでしょう。
  経営者には,法的な問題は,本書を参考にしながら勉強してもらう必要がありますが,その前に,組織の風通しをよくし,パワハラをはじめとするハラスメントの芽を摘んでいく取組も大切です。おそらく,これからの弁護士は,こういう紛争予防という点でも,アドバイスをすることが期待されるのではないかと思います。私の『人事労働法』(弘文堂)は,労働法と人事管理(経営)を融合させるという目的に向けたささやかな試みであったのですが,これからの弁護士はMBAを取得して,労働法などの法的知識とあわせてトータルで企業にアドバイスすることが必要なのかもしれません。ちなみに,ビッグモーターの前副社長はMBAを取得しているという噂ですが,おそらく労働法の知識はなかったのでしょう。リーガルな面に弱ければ会社を潰してしまうのです。中小企業がよく頼りにする経営コンサルタントも,法学をしっかり学んでいない人のアドバイスは危険です。ゆくゆくは,経営コンサルタントは弁護士がやるようになるのではないでしょうか。というか,そういうことができない弁護士は,AI時代には生き残れないような気がします。

 

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