ジャニーズ問題に思う
日本は,憲法27条3項で,児童を酷使することを禁止し,労働基準法は,未成年者の保護規定を置いている国で,日本人は,そういう法制度をもたない国でのchild labor の利用を批判し,未開の国として下にみるというようなことをやってきました。その日本において,少年へのおぞましい性犯罪が長年にわたり,しかも多数なされていたというのは衝撃的な事実です。もちろん被害者や信じて預けていた親御さんは気の毒ですし,私たちも同じ日本人として恥ずかしいやら,情けないやら,なんとも言えない気分です。
もちろん犯罪者はどこの国にもいますが,ジャニーズというのは,日本のエンターテインメントを牛耳っていたわけで,この事務所やその所属タレントたちは,たんにエンターテインメントだけでなく,ニュースキャスターもするなど,社会的な影響力ももっていました。しかし,日本の多くの企業は,メディアを含め,ジャニー氏の性癖や犯罪行為を知っていても知らぬふりで,この会社に頼って,その所属タレントを使って利益を追求してきたわけです(利益追求というのは少し違うかもしれませんが,NHKも同じです)。私たちも,よからぬ噂は聞いていわけですが,いつしか感覚が麻痺してしまっていました。
ジャニーズ事務所への切り込みは,公正取引委員会が,SMAPから脱退した3名の芸能人が「干された」案件で介入したことから始まっていたと思います。公正取引委員会で「人材と競争政策に関する検討会」が始まる前の2017年6月ごろに,私のところに役人が説明に来ましたが,そのとき彼は芸能事務所の慣行に関心をもっていました。ここにメスを入れるのかと思った記憶があります。結局,検討会のメンバーには,労働法分野では別の先生が入りましたが,その後の検討会の報告書(2018年2月)をみると,フリーランス全般に射程が広がった感じになり,今日のフリーランス新法の源流の一つになった印象もあります。ただ,役人の当初の問題意識は,必ずしもそこまで広い狙いをもっていたわけではなかったように思いました(私の誤解かもしれませんが)。いずれにせよ,公正取引委員会は,その後,ジャニーズという巨大な権力に対して,おそるおそるとはいえ,牙を剥いたともいえるので,その功績は小さくなかったと思います。
ところで,私は,雇用労働者であろうとなかろうと,共通に規制されるべき保護があると考えていて,今回のフリーランス新法の労働法パート(第3章)は,そういう規定が基礎になったと思っていますが,このほかにも,労働基準法にある最低就労年齢の設定(56条)は,自営的就労者に対しても(同じ年齢でなくてもよいですが)設定すべきと考えています(拙稿「従属労働者と自営業者の均衡を求めて-労働保護法の再構成のための一つの試み」『中嶋士元也先生還暦記念論集 労働関係法の現代的展開』(信山社、2004年))。人格的利益の保護というのは,雇用労働者であろうがなかろうが認められるべきで,とりわけ犯罪的な小児性愛者(pedophile)が,まさに優越的地位を濫用して性加害をしていたことがあった以上,少なくとも最低就労年齢の設定と未成年者のハラスメントからの直接的な保護というのは,早急に法的対応が必要と思われます。今度は厚生労働省が牙を剥いてほしいところです。
さらに日本企業も,ジャニーズのタレントをコマーシャルなどにつかって利益を得ていた以上,この問題について社会的責任を果たすべきです。ジャニーズのタレントだけでなく,同種の被害を受けた人への補償のための基金を作るくらいして,国際的な評判の回復をめざしてもらいたいです。
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