小嶌典明『労使関係法の理論と実務』
かなり前のことになりましたが,小嶌典明先生から,『労使関係法の理論と実務』(ジアース教育出版社)をお送りいただきました。いつも,どうもありがとうございます。この本は,小嶌先生の団体法の分野で書かれた論文をまとめたものです。1冊にまとめられたので,とても助かります。しかも,この本はたんに過去の論文を収録しただけでなく,それぞれに「Summary & Supplement」がつけられていて,その後の情報の補充などがされていて,勉強になります。ここでは個々の章の内容について検討することはできませんが,労働組合,従業員代表制,団体交渉,労働協約,争議行為(とくに怠業論)などについての重要な論点を,独自の視点から検討し,通説とはまったく異なる結論を提起されたりしています。
いきなり冒頭に,労働法学に衝撃を与えた「労働組合法を越えて」が収められています。同論文は,今日,個人事業者の団体交渉という問題が出てくるなかで,まさに立ち返らなければならない論点を扱っていたのです。「団体交渉は,労働組合の専売特許ではない」(20頁)という小嶌先生の主張は,労働法学ではほとんど相手にされてきませんでしたが,いまのとなれば,その先見性は驚くべきものです。
一方で,小嶌先生は,ある意味では徹底したリアリストの観点から,現場における常識的な感覚(たとえば,使用者が,複数の労働組合と団体交渉に応じなければならないとするのはおかしいのではないか)が,アカデミックな議論では通用しておらず,非常識なことがまかりとおっているということを随所で指摘されています。その指摘のすべてに賛成するわけではありませんが,考えさせられる部分も多いです。
本書の最後には,小嶌先生は,自分のことを「プロキャピタル」と呼ばれることに反論しています。むしろご自身は「プロユニオン」だと言われるのです。私は,小嶌先生は「プロキャピタル」なのではなく,あるべき労働法を追求し,だからこそ,「ユニオン」に対して厳しい(愛ある)意見を述べたりしてきたのだと思っています。
10年以上前に,小嶌先生の著書『労働市場改革のミッション』の書評を書かせてもらったことがあり(日本労働研究雑誌617号),僭越ながら,次のようなことを書いていました。
「本書全体を通して伝わってくるのは,著者のもつ,堅い信念に満ちた改革への情熱である。「自由と競争」を重視するというと,経済学者の主張のよ うにも思えそうだが,著者の基本にあるのはあくまで労働者の保護であり,まさに労働法学者のスタンスなのである。労働者を保護するための方法をどうするかという点で,通常の労働法学者と手法が違うだけである。ただ,その手法の違いは,著者と他の労働法学者との溝を深いものとしている。著者はそれで良いと思っているかもしれないが……。」
最近は,規制・制度改革学会の雇用分科会で議論させてもらう機会があります。また,いろいろ教わることができればと思っています。
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