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2023年6月25日 (日)

混合診療について

 昨日に続いて医療のネタですが,医療機関で保険診療と保険外診療を併用する混合診療について,これは医療機関に禁じられている(混合診療禁止の原則)と同時に,そうした混合診療については,保険診療の部分も含めて全体として保険の適用外となる(全額自己負担となる)という混合診療保険給付外の原則があります(少し古いですが,2013年の内閣府の資料が参考になります(https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/discussion/131128/gidai1/item1-1.pdf)。ただし,これらの原則には例外があり,先進医療のような評価療養は例外ですし,一定の差額ベッドなどの選定療養も例外とされていて(保険外併用療養費の対象として,保険が適用される診療については,保険給付として,保険適用に準じた扱いとなる),混合診療は禁止というよりは,実質的には,条件付き解禁というべき状況です。さらに2016年以降は,患者申出療養制度というのが設けられ,先進医療について評価療養に属するもの以外についても,この制度の適用を受ければ,保険外併用療養費制度の対象に含まれます。
 保険外併用療養費制度の対象となっても,保険外診療の部分は全額自己負担となるので,やはり負担は小さいものではありません。先進医療もできるだけ迅速に安全性や有効性を評価して,本来の保険診療とするかどうかの判断をしてもらいたいです。おそらくこの分野でも,AIは重要な役割を果たすことになるでしょう。
 ただ保険診療に入れるかどうかを迅速に決定するということは,有効でない治療法をすみやかに排除すると同時に,次々と新しい治療法が保険に組み入れられることにもなり,それによる医療費の高騰が心配ではあります。一番おそろしいのは,保険外診療を選択しやすくなることで,それなら財政上の理由で保険診療の範囲を制限しようとする議論が出てくることです。保険治療の原則にこだわる論者は,こういう議論を封じるねらいがあるのかもしれません。
 混合診療の解禁は,一時期,規制改革の波が吹き荒れたときのホットイシューでした。患者の選択を増やし,医師の治療法の選択も増やすので望ましいというものです。富裕層優遇という批判(自ら治療費を払える人しか先端医療を受けることができず,しかも保険給付相当部分は保険の適用があるのは不公平であるなど)については,航空機のファーストクラスが不公平と言わないのと同じように考えるべきではないか,という反批判もありました。
 選択の自由については広いほうがよいと思いますし,患者と医師の情報の非対称性は,今後は対話型AIの発達で急速に縮まっていく可能性があり,混合診療への懸念はそれほど大きいものでないかもしれません。しかし,やはり気になるのは医療財政の問題です。財政の観点から,保険診療にとりこむことが抑制され,国民を保険外診療に誘導する流れが生じるおそれがあるとすれば,それだったら混合診療なんてないほうがよいということになりそうです。
 AIの活用は,治療法や薬の開発費用を抑える面でも期待され,それにより,安全性と有効性が確認されたものがどんどん保険適用されても医療財政をそれほど悪化させなくなるという状況が理想です。国民皆保険の素晴らしさを維持するため,保険診療を原則としながら,同時に治療法の選択肢は広く確保されるようにし(それが先進医療の開発へのインセンティブにもなる),そして財政も悪化させないようにするという医療改革が必要なのでしょう。
 以上は素人談議ですので,きちんとした社会保障法学者の意見を聞いてみなければなりません。

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