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2023年6月21日 (水)

藤井竜王・名人がみせるAIの可能性

 藤井聡太竜王・名人の衝撃の逆転勝利(一撃必殺で相手を倒したという感じです)の余韻から,まだ冷めていない将棋ファンも多いでしょう。
 ところで,先日,羽生善治九段が,いま話題の成田悠輔さんと対談している動画を観ましたが,藤井竜王・名人が,負けた将棋などで,自分の指した手についてAIを使って検討しているということを話していました。いまや人間よりAIは強いので,プロ棋士であっても,AIを使って勉強するのは当然のことであり,藤井竜王・名人も例外ではありません。いまはプロ棋士がAIに勝てないことは,もはや問題ではありません。全員がAIというツールを使って勉強できる状況のなかで,なぜ藤井竜王・名人だけが強いのかが問題なのです。羽生九段は,AIの判断をどう咀嚼して自分の戦術に活かしていけるかで差が出るというようなことを言っていたように思います。
 AIという巨人に乗っかると,どんな新しい景色をみることができるのか。これからは,そういう観点からAIと向き合っていく時代なのでしょう。誰もが乗れそうではありますが,やはり使い方というものがあって,その巧拙により,みることができる景色が違ってくるのでしょう。しかも,それは単にテクニカルなものにとどまらず,自身の思考経路など,人格のより深い領域に関わるものでもあるのです。
 NHKのクルーズアップ現代で,谷川浩司十七世名人が,藤井竜王・名人は終盤でもおそれを知らないようだという趣旨のことを述べていました。将棋界では「震(ふる)える」という言葉がありますが,終盤で優勢な局面でも,思い切った手を指せず,結果として緩手を指してしまうというのが,「震える」の典型です。羽生九段の場合は,勝ちが決まったと確信した場合に,指したときの手がほんとうに「震える」のは有名ですが,これは違う意味の「震える」です(でも神経が非常に高ぶった状態なのでしょうね)。いずれにせよ,藤井竜王・名人は震えないのです。強靭な精神力なのか,神経が図太いのかわかりませんが,終盤において震えないというのは,これまでは人間にないAIの強みでした。その面でもAI並みであるのが藤井竜王・名人です。
 人間の脳の回路がAIと融合したら,どんなことになるか。藤井竜王・名人の活躍は,それを将棋をとおして,人類に示してくれていくのでしょう。

 

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