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2023年6月26日 (月)

育児のワンオペ

 今朝の日本経済新聞の春秋で「人間の育児はワンオペに向いていない」という高橋祥子氏の言葉が紹介されていました。生物学者の高橋氏が出産したとき,「人間ほど弱い哺乳類はほぼいない。よく人類が増えたなというのが生物学者としての最初の感想」だったそうです。それにもかかわらず人口を増やすことができたのは,集団で育児をしてきたからであるというのが高橋氏の考えです。「人間の育児は集団生活が大前提になっている」のであり,だから育児はワンオペに向かないのです。「生物学的な子育ての仕組みと,育児家庭の大半が核家族という現代の環境とのギャップが少子化の原因ではないか」というように「春秋」は述べています。
 だから「子育ての負担を社会全体で賄うのは必然となる」とまで言うべきかどうかはともかく,0才児のように,まさに最弱の生き物を育てるのは,とてもワンオペでできるようなことではないというところを議論の出発点にすべきでしょう。女性労働者に対する産後の8週間の休業強制(労働基準法65条2項)は,授業では,この規定は本人の自己決定を奪っているので,過剰な規制ではないかということを述べています(デロゲーションを認めるべきであるということ)が,しかし観点を変えれば,産後8週間のうちに子から離れて労働するなど論外という言い方もできそうです。だからこそ社会で育てるのだということかもしれませんが,むしろそこまでして子から引き離して労働させるのではなく,どうやったら子から離れずに働けるかということを考えていくべきなのです。ということで,いつものテレワークの勧めです。
 仕事部屋でリモートカメラをつけて,別の静かな部屋で眠っている赤ちゃんが動けば音が鳴るようにし,カメラをとおして危険な状況にないかをチェックできるようにし(パナソニックの「ベビーモニター」の活用など),何かあればすぐに離席して赤ちゃんのところに駆けつけることができるようにするといった権利こそ,実は大切なものではないでしょうかね。労働基準法661項は,「生後満1年に達しない生児を育てる女性は,第34条の休憩時間のほか,12回各々少なくとも30分,その生児を育てるための時間を請求することができる」とあり,これは女性労働者の授乳を想定した時間とされていますが,むしろこれを男女共通規定にし,リモート会議中でも,「生後満1年に達しない生児を育てる労働者は,第34条の休憩時間のほか,1日に1時間,分割または連続して,育児のための時間を請求することができる」というような規定を導入したらどうでしょうか(ちなみに授乳時間でも,男性でもミルクをあげることはできるので,女性労働者だけの権利にしなくてもよいのですが)。せめて「モデル就業規則」くらいには,こうした育児時間の権利を入れてほしいですね。ほかにも,いろいろアイデアはありうるのですが,いずれにせよ,「異次元」というのなら,労働基準法を改正するくらいの少子化対策を考えてはどうでしょうか(プロ的視点からは,育児介護休業法に規定を追加するより,刑罰法規である労働基準法の改正をして入れたほうが本気度がうかがえます。もっとも,その場合でも,私の立場では,やはりデロゲーションの余地を認めることは必要ですが)。

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