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2023年6月10日 (土)

泉房穂氏の存在感

 明石市の前市長の泉房穂さんの存在感が高まっていますね。真の改革派として実績を上げ,兵庫県,さらには国へと進出してくるのではないかという声もあります。個人的には,明石市というと子午線と天文台,明石だこと明石焼き,JRの電車からみえる明石城くらいで,これでも大したものですが,やはり神戸や西宮からみると田舎で,積極的に選んで住むところではないというイメージがありました。いまもそのイメージが完全に払拭されたわけではありませんが,それは私の頭がアップデートされていないからで,現在の明石市の全国的なイメージを客観的に示すと,泉さんのおかげで子育てに先進的で住みやすい市の代表のようだと思います。
 泉さんをすごいと思ったのは,職員から「お上意識」「横並び主義」「前例主義」を取り除き,市民目線に立つようにしたということです(と本人がどこかで言われていました)。地方への中央官庁の支配力はすごいものがありそうで,いろいろ私の周りで聞いていると,地方分権なんてどこにあるのか,というようなことを感じることもあります。それに反発してほしい気もするのですが,自治体職員のなかにはどうも「お上意識」があり,そして何をやるにしても前例踏襲で,前例がなければそれだけを理由に提案を退け,そして新しいことは,どこかがやってくれれば安心してやるという横並びで(前に「ゆるキャラ」を嘆いたのもこのことです),そんな仕事の仕方をしていれば,職員の間に知的ファイトがわくわけがありません。泉さんは,この点にメスを入れたということでしょう。
 たしかに「前例主義」は,社会が静的な状況であれば,まずは前がどうだったかを調べてそれに従うのは,混乱が生じないためにも,またいちいちゼロから考えなくてよいという点で時間の節約にもなるので,理由がないことではないと思います。しかし,現在は,そういう状況があてはまる分野は限られているでしょう。あらゆるところにデジタル変革が押し寄せているのです。現在の課題は,前例とは問題状況が異なるという「区別(distinction)」をして,前例があてはまらないから,新たな発想で自ら前例を作り出すという姿勢で臨むべきなのです。これは知的作業であり,また現場では,前例主義に凝り固まる人たちを押しのけていく「力技」となるのかもしれません。泉さんは市長12年という長期政権のなかで,実績を積み,それに基づき自身の発言の説得力を高め,ときにはそのもつ権限を最大限に行使しながら(やりすぎるとパワハラなんて言われるのでしょうが),前例主義を知恵と力で打破してきたのでしょう。
 ChatGPTの時代。人間ならではの考える力がとても大事になってきています。実は前例主義というのは,ChatGPTの得意分野です。ChatGPTは,既存のデータの集積による判断しかしていないからです。前例主義,横並び主義,お上の指示待ちというような人は,これからは不要です。もし他の自治体でも,こういう意識をもっている職員がいるなら,早急に意識改革をしなければ,お荷物になり,AIの導入に反対する抵抗勢力になりかねないことを,首長たちは意識しておいてもらいたいです。これは大学にも同じようにあてはまる話です。 

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