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2023年5月12日 (金)

第四銀行事件

 今日はLSの授業で,就業規則の不利益変更を扱いました。あらためて第四銀行事件を読みながら,自分も知らぬ間に,原告の年齢をとっくに超えていて,賃金の不利益変更についての重さを,わが事として受け止めることができるようになっていることに気づきました。河合裁判官の反対意見が,血の通ったものだなという気がしましたね。就業規則の不利益変更については,私的自治の観点,合意原則などから批判の対象としてきました。いまは,企業に対して,きちんと納得同意を得るように努めてほしいという見解を述べています。それはともかく,老後の生活設計というものの切実さを感じる私にとっては,原告にとって,この不利益変更はきつかっただろうなという気持ちはよくわかります。
 もちろん,個人にとっての経済的打撃は,共働きであるかとか,預金がどれくらいあるかというようなことによって変わってくるのでしょうが,予定が立たないということは困るのですよね。老後のことを考えると,年金しか収入がないという状況のなかで,税金,医療の自己負担,社会保険料負担,日用品のインフレなどは,ほんとうに厳しいものとなるでしょう。そういうなかで,定年直前の現役末期の段階で,賃金が引下げられるというのはきついと思います(第四銀行事件の場合は,55歳定年,58歳までの定年在職制度というものが,60歳定年になるものの,55歳以降の賃金が引下げられた事案)。
 第四銀行事件の多数意見は,経過措置を設けたほうが望ましかったとは言っています。しかし,労働条件の集合的処理を建前とする就業規則の性質で,最後は押し切ります。どうして集合的処理という建前で,労働者が同意しない労働条件に拘束されるのか,納得いかないというのが,私の博士論文のテーマでしたが,その疑問はいまも持ち続けています。
 今後70歳までの定年延長という形も出てくるのではないかと思います(ただし,さらなる先は,定年という考え方自体がなくなっていく可能性もあります)。現状では,再雇用が優勢ですが,再雇用という形での継続雇用があるというだけでは,良い人材が流出したり,集まらなかったりする可能性があるからです。ただ,定年延長となると,やはり賃金の不利益変更の問題は出てくるでしょう。その意味でも,第四銀行事件・最高裁判決は(その後の,みちのく銀行事件・最高裁判決もあわせて),なお重要な判決であると思います。

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