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2023年5月18日 (木)

人口推計への疑問

 国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」に対する疑問を取り上げた,制度・規制改革学会の「年金分科会」の動画(2023年 人口推計の問題点)を視聴しました。426日に公表されたこの人口推計について,まずこの時期が統一地方選挙後であり,政府が公表時期を操作したのではないかということが複数の参加者から指摘されました。本来1月に公表すべきものを,4月に遅らせる理由はとくになかったわけで,ここに政府の意図が感じられるというのです。たしかに統計の信用性という点でも,できるだけ公表時期は決まった時期にしておくべきであり,それが政府の都合で左右されるということがあれば,そのこと自体,統計の信用性を揺るがすことになります。
 統計の内容については,外国人が増えることを想定した人口推計をしていることについて疑問が出されました。外国人が増えるというのは,外国人労働政策と密接に関係しますが,その分野の専門家がいないまま,適当な希望的観測が入ってしまっているのではないか,ということです。一時的に外国人が増えるとかそういうことではなく,政策として外国人労働者や移民問題についての対応を明確に決めなければ,将来の人口推計に外国人のことを取り入れることなどできっこないということでしょう。
 また,出生率の改善の見込みについても疑問が提起されていました。2070年に1.36とされていますが,2021年の1.30より増えるという見込みです。しかし,未婚化がどんどん進むと予想されることをどう考えるのか(これは日本では少子化に直接影響します),また外国人がかりに増えるとしても,ほんとうに少子化の改善となるほど定着してくれるのか,ということも問題となるでしょう。
 人口がどうなるかという単なる予測だけであれば話のネタ程度でいいのですが,重要なのは,これが年金制度における政策決定の資料に利用されるということです。人口減少を甘くみると,つけを払うのは,将来世代です。これまでもほとんど出生率の予想ははずれていたのであり(高すぎる予想であった),その反省もないままやっていることを八代尚宏先生は強烈に批判されています。この動画は,ぜひ多くの人に視聴してもらいたいです。
 今後,未婚世代は増え,少子化は著しく進行し,外国人も日本の少子化を改善するほどは定着せず,ましてや年金保険料を支払ってくれるほどの定着は期待できないと考えておくのが,現実的なシナリオであり,それをベースにすれば,どのような年金制度にする必要があるのかということこそ,国民がほんとうに知りたいことでしょう。この動画をみて,政府サイドも反論があれば,ぜひやってもらって,私たちの子や孫の社会保障制度に対して責任をもった議論をできるようにしてもらいたいです。
 なお,未婚化については,荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる』(2020年,ディスカヴァー・トゥエンティワン)が,おそろしい内容ですが,勉強になります。

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