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2023年5月26日 (金)

日本企業は過去を捨てて変われるか

 日本経済新聞で,「ジョブ型雇用,御社は?」という特集で,日本企業のジョブ型への取り組みが紹介されています。おそらく,大企業がジョブ型なるものを導入しようとしても,相当難しいと思います。ジョブ型の定義にもよるのでしょうが,安定雇用を前提としながらジョブ型を実現するというのは不完全なものとならざるをえません。もちろん日本型ジョブ型なるものを目指すことはできるでしょうし,それがある程度うまくいくこともあるかもしれません。ただ,前の経済教室にも書いたように,これからのジョブ型の本筋は,個人のキャリアをベースに考えたものであり,特定企業での雇用を前提としたものではありません。ジョブ型というのは,それ自身が何か具体的な人事管理の方向性を示すものではなく,採用の際にどのようなジョブを遂行するのが労働契約上の義務であるのかを明確にするということがポイントであり,そこから職務給的な賃金の話や解雇の話などが演繹的に導きだされてくるのです。そういう前提のうえで,具体的にどう人材を活用するかということが問われるので,ジョブ型はパソコンでいえばOSのようなものです。そこにどのようなアプリを乗せるかが各企業の腕の見せどころとなるわけです。
 おそらくジョブ型への移行は,日本型雇用システムというOSをもっている既存企業では,簡単にはいかないでしょうし,失敗するでしょう。日本におけるジョブ型への移行は,スタートアップ企業や外資系の企業など,日本型雇用システムとは縁がなく,すでにジョブ型のOSを導入している企業が増えて,そこに人材が吸収されていくという形で起こるのだと思います。では既存の日本企業に未来はないのでしょうか。
 セブン&アイ・ホールディングスの井阪社長は,株主総会で,前回より賛成投票率が減ったものの再任されました。もの言う株主からの反対提案をはねつけることに,とりあえずは成功しました。しかし,同時に,長年グループの収益の足をひっぱってきたイトーヨーカ堂を切れない現経営陣への株主側からの不満もはっきりみえました。イトーヨーカ堂はグループの祖業であり,これなしではグループのアイデンティが失われることになるのかもしれません。経営的にも,セブンーイレブンの食品部門を支えるのはイトーヨーカ堂であり,コンビニとスーパーとのシナジー効果が出ているというのが現経営陣の言い分であり,それが一応株主には支持されたということでしょう。しかし,それはイトーヨーカ堂という会社をいまのままでグループ内に取り込んでおく説明としては弱いように思います。おそらくより大きなのは雇用問題なのでしょう。イトーヨーカ堂を切ると,大規模なリストラ問題が出てきて,そこには日本の経営者はなかなか踏み切れないのです。
 これはジョブ型の話とは関係がないようですが,セブン&アイ・ホールディングスの話は日本の会社の良さと悪さが出ていて,これがジョブ型移行の難しさにも通じるところがあるように思えます。祖業へのノスタルジー,雇用確保の優先度の高さ,再生に向けた根拠の弱い願望的展望などは,数字重視のアメリカ流の投資家には理解できないものでしょう。そこを押し切ることができて,日本流の良さを維持できるか。ジョブ型というときに出てくる反対論も,やはり過去の日本型雇用の人材育成や集団的主義的な仕事の仕方などと相容れないという過去へのこだわり,雇用の安定性への悪影響,日本型でも引き続き生産性を維持できるという根拠の弱い願望的展望なのです。
 このような観点から,セブン&アイ・ホールディングスが,どのように変わっていくかは,ジョブ型の行方との関係でも参考になるものとして注目したいと思います。

 

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