労働法の規制手法の再検討
季刊労働法280号は,特集テーマは「再検討・労働法の規制手法」で,私が総論的な論文を書かせてもらいました。このテーマでは,山川隆一先生の優れた研究があり,それに付け加えるものはないのですが,少し「共同規制」的なアプローチにこだわってみると,面白いのではないか,またそれも含めて,デジタル時代を意識して,「規制」の概念を広くとらえ,私のいう非政府規制(非常に広い概念)の活用も含めて,もっと多様な規制手法を総動員すべきではないか,という問題意識で小論を執筆しました。もはやハードローの時代ではないだろうというのは,多くの研究者が感じているところだと思いますが,ではどのような法規制が必要かはまだ理論的に模索されている途中です。とくに私はenforcement だけでなく,rulemaking のところの多様化にもっとこだわりたいと思っていて,論文ではまだ試論のレベルにも至っていないものであり,今後さらに研究を深めていければと思っています。
特集の執筆陣はバラエティに飛んでおり,労働政策研究の第一人者の濱口桂一郎さんは情報公表規制について,論文の表現でいえば,「使用者に一定の情報の開示を義務づけることにより,一種のプレッシャーをかける形で,間接的に望ましい方向に誘導しようという規制手法」とみて,日本とEUでの例を紹介してくださっています。また労働法でよく活用される行政機関が策定する指針について,行政法の観点からの理論的な分析した論文を,神戸大学の興津征雄さんが執筆してくださっています。労働法で最近よく使われている指針は,行政法学者からみるとどうみえるのかは,労働法研究者にとって興味深い点であり,精密な分析がされていてたいへん勉強になりました。また,民間のガイドラインの活用は,共同規制の一つですが,フードデリバリーサービスの業界が策定したガイドライン(私も関与しています)を素材として取り上げ,ガイドラインの策定を主導した業界側の西村健吾さんにガイドラインについて紹介してもらい,ワーカー側の立場からこれをどうみるかについてフリーランス協会の平田麻莉さんに検討してもらい,さらに労働法学者の土岐将仁さんに理論的な分析をしてもらいました。平田さんからの指摘や土岐論文で指揮された理論的課題は実務にフィードバックし,よりよい内容にブラッシュアップしていくことが必要でしょう。いずれにせよ,ギグワーカーにとって就業環境の改善は,ときには労働者性や使用者性で白黒をつけてフルスペックの労働法的な関係を構築すべき場合もあるのですが,新しいビジネスモデルなので,既存の枠組みをあてはめることが適切でないこともあり,だからといって政府が新たなrulemakingをしようとすることには限界があるかもしれず,そこに業界が自主的に社会的責任をはたすような誘導システムを構築する意義があると思っています。最後に,公契約条例に関する早津裕貴さんの論文も重要です。公契約条例も広い意味での共同規制の一つの手法として,労働法学においても理論的検討の対象とすべきでしょう。労使自治との関係など興味深い指摘がされており,公共部門の労働法研究で目覚ましい成果を挙げている早津さんの今後の研究の発展への期待は大です。
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