こどもまんなか社会
こども家庭庁が創設され,「こどもまんなか社会」をスローガンに掲げているのは,結構なことです。ただ具体的な政策が,経済支援に偏るのは適当とは思えません。経済支援の重要性は否定しませんが,経済面以外の支援こそまずしっかり考えてもらいたいと思います。それは,財源が厳しいなかで無理をすると,結局は,こどもたちに負担がかかるからです。たとえば手厚い保育のためには,保育士を増やす必要がありますが,潜在保育士が多いことにどう対処したらよいか,という問題があります。給料を上げたらよいというのが第1に出てくる発想であり,保育士の仕事に特別な最低賃金を導入し,そのうえで事業者に補助金を出すというような政策が出てくる可能性があります。ただ,ここでは安易に経済支援策に打って出るのではなく,これをいったん封印して,そのほかに何ができるかを考えてみてもらいたいです。保育士の生活はもちろん大切ですが,たとえば働く環境が良いというような,賃金以外の労働条件の改善も,実は労働者にとっては魅力的なベネフィットです。ハラスメントがない環境(ハラスメントには保護者からのハラスメントもあり,そうしたものに事業者側がきちんと対応することも含まれます),休息時間が確保できる環境,年次有給休暇が100%消化できる環境,育児休業はMax取得できる環境なども,結局はコストにかかわるものとはいえ,賃金を上げるというのとは異なるもので,それがしっかりできれば潜在保育士のなかから戻ってくる人も多いのではないかと思います。よく成果主義に対しては,かえって働く意欲が下がり生産性が下がるというクラウディング・アウト(crowding-out effect)効果が生じる(外的報酬が,本人の内発的動機をかえって減退させる)という批判がされますが,それを少し参考にすると,内発的動機をもっている保育士さんたちに,報酬面での刺激を与えすぎるのは,かえって逆効果ではないかいうこともできそうです。潜在保育士も,よい就労環境があれば働いてよいと考えている可能性が大きいのであり,どのようにして,そうした内発的動機を刺激するような就労環境を用意するか(繰り返すように賃金の重要性も否定しませんが)ということについて知恵を使う必要があると思います。
これは一例ですが,こどもまんなか社会というとき,このほかにも,たとえば,親に近くにいてほしいこどものためにテレワークを推進することが重要ですし(いつも言っていることです),育児や介護をしている従業員は時間どおりに行動することは難しいので,あまり時間管理を厳格にしないことも重要だと思いますし,労働以外の分野でも,無意味な騒音をまき散らす選挙カーは,小さなこどもの睡眠を邪魔するものなので,保育園近辺だけでなく,一般の住宅の近辺でも日中は禁止するというようなことが,実はこどもまんなか社会ということを言う以上,ぜひやってほしいことです(選挙活動はネットでやってください)。さらに,よちよち歩きの子が安心して歩道を歩けるように,自転車の歩道利用を禁止するとか,公共輸送機関での優先座席における一般人の利用を制限するとか,エスカレーターの歩行の禁止とか(急いでいる人に追い抜かれるときが危ないです)が,大切なことです(これは高齢者のためにも必要なことです)。罰則付で禁止するのはやりすぎでしょうが,社会的強者が弱者(こども,老人,あるいは育児や介護をしている人)に配慮できるよう,うまく誘導することが必要だと思います。6月の骨太の方針に向けて,おそらく各役所が予算をとれるための作文に注力するのでしょうが,少ない予算で成果が大きそうなコスパの高い政策はいくらでもあるように思えるので,そういうことに重点を置いてほしいものです。
なお,児童手当についての所得制限撤廃は,難しい問題です。所得制限は差別につながるというような主張もあるようですが,非金銭的なサービスはすべての子に平等にすべきなのはそのとおりとはいえ,厳しい財政状況を考えると,個人に直接金銭を支払う支援はやや違うのではないかと思います。所得制限撤廃は,こども支援政策に対して,こどもに無関心な人たちのいっそうの離反を招かないか気になるところです。その一方で,若い世代の人に,子をもてば,公的助成があるというメッセージを送ることは重要であるという気もします。難問ですが,ここでも金銭をばらまく以外の支援方法がないかを,まずは考えたほうがよいように思います。
« 感謝 | トップページ | 事故防止にAIを »
「政策」カテゴリの記事
- 保護司の仕事の重要性(2024.06.10)
- 定額減税政策に思う(2024.05.30)
- 小嶌典明『新・現場からみた労働法』(2024.03.22)
- 社会保障の再構築(2024.02.26)
- 岸田減税に思う(2023.10.25)