研究者の仕事
佐藤博樹さんから,中央大学のビジネススクール(CBS)の定年退職に合わせた「最終報告」のパンフレットをお送りいただきました。私と比較的近い世代の先輩の研究者に,そろそろ定年の人が増えてきていて,少し寂しい感じがします。佐藤さんとは,日本労働法研究雑誌に同時期に編集委員をさせてもらったことがあります。編集委員時代の10年少しの経験は,私の研究人生に大きな影響を与えたと思います。JILPTにはたいへん感謝しています。私が編集委員となったのは,2000年か2001年くらいだったでしょうか。たしか山川隆一さんの後任で,荒木尚志さんと一緒にやったような記憶があります(荒木さんのあとは,中窪裕也さん,水町勇一郎さんと一緒でした)。労働法以外の分野では,佐藤博樹さん以外に,中村圭介さん,佐藤厚さん 大竹文雄さん,玄田有史さん,守島基博さん,藤村博之さんたちがいたと思います。錚々たるメンバーですね。これで刺激を受けないはずがありません。
佐藤さんからは,編集委員を辞めたあとも,直接,あるいはご著書から,いろいろ教えていただきましたし,昨年の9月には一緒にセミナーをやるなど,これまでも役所関係の仕事や講演などで一緒になることがありました。
今回いただいた「最終報告」の冒頭に,日本労務学会誌に特別寄稿された「問題の解決の『鍵』は現場に―実証的な労働研究」という論考が掲載されていました。そこでは,佐藤さんがこれまでの研究を振り返っていますが,若いころから,現場を重視した研究を一貫してやってきたことがよくわかります。企業の人材活用のあり方を現場の情報を収集しながら分析し,さらにある頃からは政府の場でも主導権を発揮してこられました。労働組合研究,正社員以外の多様な働き方,人材サービス,両立支援・ワーク・ライフ・バランスなど,研究テーマは,労働政策の主要課題を先取りしたものでした。研究者として理想的な仕事をされてきたのだなと思いました。
現在の研究テーマとしては,柔軟性・知的好奇心・学習意欲の3つを具備した社員の育成,および,仕事をする時間と仕事をしない時間のバウンダリー・マネジメントを挙げておられます。どちらも重要なテーマです。社員育成の3つの要素は,佐藤さん自身がまさにもっているものでしょう。バウンダリー・マネジメントの鍵は,DXであると思っていますが,佐藤さんたちが,どのような研究成果を出されるか楽しみにしています。