マスクの弊害
産政研フォーラムの最新号(136号)で,大竹文雄さんが連載中の「社会を見る眼」は,「マスクの弊害」というタイトルで,マスク着用が高度の知的判断をする仕事では生産性を低下させるということが,紹介されていました。チェスのプレイヤーに関する分析結果によるものですが,その原因は解明されていないものの,注意力の低下による可能性が高いということでした。そして,大竹さんは「非常に高度な認知能力を使うような仕事をする際には,マスクを着用しないで行うことがよさそうだ。職場でも工夫していきたいものだ」と結んでおられます。
藤井聡太竜王(六冠)の将棋などをみていると,マスクの影響はまったく感じられないようにも思いますが,もしマスクがなければもっと良い手を指していた可能性がないわけではありません。ただ注意力の問題だけであれば,慣れの部分がありそうです。私も外でマスクをして話すのは最初は嫌だったのですが,そのうちに着用していることを忘れていることもあります。たぶん集中してしまえば,マスクはあまり関係がないのかもしれません。
むしろ私は他人がマスクをしているかいないか,というようなことが気になって,集中力がそがれてしまいます。さらに,会話では,マスク越しでは他人の声が聞こえにくいことがあるし,自分が話すときに声を張り上げなければならないのもイヤです。マスクを着用しなくても大丈夫という状況がない以上,対面型の仕事でマスクをつけるかどうかですったもんだするよりも,テレワークでやったほうがよいと思います。テレワークの効用では,これまで挙げてこなかった点ですが,マスク着用による生産性の低下を防ぐという点やマスク着用をめぐる種々のストレスという点も追加してよいような気がしてきました。大竹さんのお考えとは違うインプリケーションかもしれませんが。
ちなみに将棋のマスク不着用の反則については,社会問題にもなりました。A級順位戦という大事な対局で反則負けになった佐藤天彦九段はぎりぎり降級を免れたから,まだよかったですが,もし降級になっていたら,話はもっとこじれていたかもしれません。その後,日浦市郎八段が,正面から反マスク行動(鼻出し着用)を取って,反則負けが続き,3ヶ月の対局停止処分を受けました。こちらのほうは,将棋連盟は,手続をきちんとふんでやっており,やむを得ないでしょう。もし,日浦八段が,マスクを鼻でおおうと注意力が下がり,よい将棋が指せなくなり,それはファンの方に失礼である,感染防止は口の部分を覆えば十分であり,鼻まで覆わせるのは過剰な規制である,鼻の部分は自身の感染防止のためであるので,それをするかは自分で判断する(日浦八段は2021年にコロナ感染しています),とでも言っていればどうだったでしょうかね(日浦八段がどのような弁明をしたかはわかりませんが)。もっともHPをみると,日本将棋連盟は,高い公共性が求められる公益法人として政府の方針や方針に則った対応をするという権力に従順な姿勢を示しており,棋士も連盟に属する以上はそれに従わざるを得ないということでしょう(https://www.shogi.or.jp/news/2023/02/post_2256.html)。棋士の世界では,日浦八段のような行動をとる棋士もいなければ面白くないのでは,とも思いますが,これは無責任かつ不謹慎な発言でしょうかね。
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