映画「ヒポクラテスたち」
Prime Videoでやっていたので観ました。一度観たことがあるはずですが,ストーリーはすっかり忘れていたので,観てみました。1980年のATGの映画です。大森一樹監督,古尾谷雅人主演,キャンディーズを解散して「普通の女の子」に戻ったはずの伊藤蘭ちゃんはこの作品で復活です。柄本明,内藤剛志,斎藤洋介らも出演しています。鈴木清順が,こそ泥(病院荒し)役で出ているのは,笑ってしまいました。卒業間近の医学生の青春ストーリーです。医師の倫理を説いたヒポクラテスの誓いは有名ですが,実際の医療業界はそうきれい事を言ってられません。しかし,まだ国家試験に通る前の医師の卵たちには,若者らしい潔癖性や正義感があります。いろいろな悩みを抱えながら,懸命に生きている若者たちが描かれていて,私は医学部生ではありませんが,学生時代の気分に戻った感じがして懐かしかったです。
主人公の荻野愛作ら医学部の6回生は,臨床実習では白衣を着て,周りからは「先生」扱いです。しかし,知識はあっても,臨床の現場では,いろんな人に接することになり,自分たちが未熟であることがわかってきます。堕胎希望の女子学生と面談したり,ヤクザから血を抜いたり,胃がんである可能性が高い患者の腹部を触診したり,緊急搬送の現場で悲嘆にくれている親族らしき人たちに直面したり,これまで経験していなかったようなことが次々とふりかかってきます。
寮生活をしている愛作には恋人がいて,ときどき彼女のところに行っていました。そんなとき,愛作は,彼女が妊娠していることを知ります。彼女は町の産婦人科医で堕胎するのですが,その後,体調不良となります。彼女は結局体調が戻らず,故郷に帰ってしまいます。その後,その産婦人科の医師は無免許医で,被害者を多く出していたことを報道により知った愛作は衝撃を受けます。彼は白衣を黒く塗りつぶして仲間の前に現れます。精神がおかしくなってしまったのです。
古尾谷のピュアな若者の演技は印象的です。その後の彼の自殺は信じられませんが,いろんな苦悩があったのでしょう。よい役者だったのでもったいないです。
ところでATGの映画は,若いころはよく観ていた記憶があります。江藤潤と竹下景子が出ていた「祭りの準備」も印象的です。江藤潤といえば,「純」という映画も,ありました。故郷の軍艦島から集団就職で都会に出てきた青年が,痴漢という行為にのめり込む映画であり,興奮して観ていた覚えがあります。ATGではないようですが,ATGっぽい映画です。ただ,痴漢行為が出てくるので,いまの時代であればクレームがでるでしょうね。そういえば,「ヒポクラテスたち」では,タバコを吸うシーンがずっと出てきて(蘭ちゃんも喫茶店で一本吸うシーンがありますが,これはアイドルをやめて女優になるという決意を監督が後押ししたのではないかと解釈しています),ちょっとタバコの煙に酔ってしまいそうになり,そこは残念でした。あれだけ喫煙シーンが出てくると,現在なら,クレームがつくことがあるかもしれませんね。あの時代の若者には,タバコを吸わせるシーンが必要だったのでしょうか。他人の健康を守る仕事をしながら,自分たちはストレスなどもあってタバコが手放せないという葛藤を描く必要があったのでしょうかね。
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