労働組合法上の労働者概念
先日の神戸労働法研究会では,Uber Japanほか事件の東京都労働委員会命令について議論をしました。ここでは細かいコメントを差し控えますが,この命令は,労働者性を肯定する結論が先に決まっていて,理由はそれに合わせたという印象は否めませんね。ただ,労働者性の判断は往々にしてこういうものになるので,結論の妥当性が正面から問題となるといえそうです。
ところで,労組法上の労働者性については,契約内容の一方的決定が判断要素の一つに挙げられています。契約内容が一方的に決定されていて,決定されている側の当事者が多数であれば,団体交渉によって契約交渉するのになじむというのは一般論としては理解できます。拙著『雇用社会の25の疑問(第3版)』(2017年,弘文堂)で,イタリアの鉄道会社と乗客たちの団体交渉の例をあげています(第5話「労働者には,どうしてストライキ権があるのか。」55頁を参照)が,団体交渉には,いろんなタイプのものがありえるのです。契約内容の一方的決定が団体交渉に適しているということであるとすると,約款を使っているような契約の多くは団体交渉に適したものとなります。もしそうでないとするならば,労働にかかわる契約条件であるところに特殊性があると考えるべきなのでしょうかね。それでも従属的な労務提供者であればわからないわけではありませんが,従属性が希薄であっても,労働者に含むというのが通説の考え方ですので,そうなるとやはり疑問が残ります。
日本法では,労働組合以外の団体交渉については,事業者協同組合のように相手に団体交渉義務がある場合でも,交渉拒否に対して不当労働行為として団交命令がでるというような特別な手続はありません。そうだとすると,そこに労組法上の労働者の特殊性を見いだすことができるかもしれません。ジュリストの論文(「フランチャイズ経営と労働法―交渉力格差問題にどう取り組むべきか」ジュリスト1540号(2020年)46頁以下)でも書いたように,労組法上の労働者概念はもともと広い意味で捉えられていたのですが,不当労働行為の行政救済制度が導入されたところで,労働者概念は限定的に解す必要が生じたのではないかと思うのです。どの研究者からも相手にされていない見解ですが(私の場合,こういうものがたくさんあって,引退前に一度まとめてみたいと思いますが),世の中にたくさんある団体交渉適格のあるもののなかで,あえて不当労働行為による救済制度が必要なものはどれかという視点でみると,労組法上の労働者概念は広いという前提は疑う余地があり,労働組合の資格審査(5条1項)において審査される労働組合の定義(2条)における労働者(3条)の範囲は,もう少し限定されるべきという考え方もできないわけではないと思っています(兵庫県労働委員会でそういう立場がとられているわけではなく,あくまで研究者としての一私見です)。そうなると,労組法上の労働者概念と労基法・労契法上の労働者概念が違うという考え方からして見直す必要があるのではないかと思えます。
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