議員のポストの軽さ
アメリカの前大統領で,次期大統領に出馬を表明している人に逮捕の噂が流れたり,ロシアの「皇帝」的大統領に国際刑事裁判所から逮捕状が出されたりするなど,普通ならびっくり仰天しそうな話だと思いますが,誰もそれほど驚かないような世界になってしまいました。日本でも,参議院議員から,一転して逮捕状が出されて「お尋ね者」になった人がいました。三人は嫌疑の内容も社会的な地位や重要性も異なるのですが,要するに,こういう人であっても(もちろん有罪と決まったわけではありませんが),選挙というものがあると選ばれてしまうことがあるというのが民主主義です。
ところで,経済安全保障担当大臣の高市早苗氏は,立憲民主党の小西洋之議員からつきつけられた,放送法関係の文書(小西文書)について,国会において,その内容が真実であれば議員辞職をすると言ったそうです。真実でない自信があったからかもしれませんが,私には,議員のポストを軽く考えているのではないか,という気がしてしまいました。自信があれば,堂々と論駁すればいいだけです。放送の中立性はとても重要なことです(アメリカのようにメディアは正しいことを伝えないというような国になってしまっては困るのは確かです)が,かりに文書の内容が真実であっても,総務大臣はもとより,大臣適格性に欠けるということはいえても,議員を辞めるほどのことではないと思います。簡単に議員のポストを賭けてしまうという点に,このポストを軽く扱っているなという印象をもってしまったのです。2021年の衆議院選挙の結果をみると,奈良2区で彼女は圧勝でした。辞職しても,次の選挙でまた勝てるという自信があるのでしょう。もちろん辞職する気はないのでしょうが,緊張感のなさが,議員辞職という言葉が簡単に出てくる背景にあるのではないかと思います。そして,そういうことを言うこと自体,もしかしたら議員にふさわしくないように思えてきます(どうも奈良知事選をめぐる自民党内の争いのようなことも,この騒動の背後にはありそうですが,ほんとうのところは,よくわかりません)。
それだけではありません。安倍元総理も,森友問題で,簡単に議員辞職を口にし,その辻褄合わせをするために財務省が忖度した結果,赤木事件が起きてしまったと言われています。安倍さんも,選挙に負ける可能性は実質的になかったから,簡単に議員ポストを賭けることができたのかもしれませんが,議員ポストを賭けるのは,普通の人はとても深刻に受け止めるので(だらかこそ,その発言が効果的でもあるのですが),赤木事件という悲劇が起きたのかもしれないのです。安倍さんのケースでも,森友問題は大きいことですが,妻がしたことにすぎないので,総理大臣を辞めるのはともかく,議員ポストを賭けるほどのものではなかったように思います。死者に鞭打つ気はありませんが,やはり軽率な発言でした。何も仕事をしようとせずに除名されてしまうような議員と同様,議員辞職を軽々しく口にするような大臣や議員も,国会を軽視していると言われても仕方ないでしょう。
話は変わりますが,上記の放送関係で問題発言をしたとされる磯崎洋輔という元議員(当時は安倍さんの側近の首相補佐官)は,私が気にいっていたNHKの「ちむどんどん」の内容を酷評し続けていた人ですね。テレビ番組にいろいろと文句を言いたい人のようですね。