« 2023年2月 | トップページ | 2023年4月 »

2023年3月の記事

2023年3月31日 (金)

マイホームの夢?

  少子化対策として,住宅金融支援機構の住宅ローンである「フラット35」の金利を子育て世代に引き下げる優遇策を導入することを政府が検討しているそうです。なぜこれが少子化対策かというと,若い世代の住宅取得や生活の負担を軽減できて,安心して子育てができる環境づくりになるからだそうです。これで助かる人が多いのなら良いような気がします。ただ,これからは,住宅は持つのではなく,借りる時代になっていくと思っていて,いまの子育て世代がどう考えているかはよくわかりませんが,ひょっとするとあまり響かない政策かもしれません。
 話は違いますが,日本経済新聞の312日の文化欄に掲載されていた作家の篠田節子さんのエッセイ「小市民の夢の跡」は,両親が夢を実現して取得したマイホームを相続することになった苦労が書かれています。ご自身はあまり家にこだわりがなかったようですが,相続だと無理やり引き継がされるので,困惑する人もいるでしょう。売ればいいといいますが,売るのも簡単ではありません。そもそも相続手続が大変でしょう。
 マイホームは,いまなお多くの人の憧れなのでしょうかね。篠田さんのご両親はそうだったようです。ただ,家をもつと,近所づきあいが深くなるし(それが好きならよいですが),修理も自分でやらなければならず,固定資産税もかかってきます。住宅ローンはいくら優遇されても,重くのしかかることになるでしょう。レンタル住まいは,家賃はかかるけれど,面倒なことがかなり少ないです。自分では手に入らないような高級マンションも,賃貸(分譲貸し)に出されることも少なくなく,そうなると少し背伸びをすれば手の届く範囲で借りられることもあります。さらに重要なのは,ライフスタイルの変化に応じて自由に住む場所を変えられることです。広い家が必要なときもあれば,そうでなくなるときもあります。二階に登るのが大変ということもあるでしょう。最後は施設に行くことも考えなければなりません。マイホームも,不要となれば,売ればよいといえそうですが,繰り返し述べますが,売買はそれほど簡単なことではありませんし,大きな損をすることもあります。何千万円もする物の売買は,フリマでの売買とはまったく異なるものです。
 モノよりコトという世代は,どんなに優遇されても,多額の借金を背負うことになるマイホーム購入より,コトに多くの消費をあて,フットワークを軽くできるレンタル住まいのほうを望むのではないかと思います。
 今回のフラット35の優遇策については,不動産業界が泣きついて少子化対策のプランに入れてもらったのではないかと邪推したくなるくらい,個人的には違和感がありますね。

2023年3月30日 (木)

報徳学園

 いつか書いたことがあると思いますが,私は,高校野球と高校駅伝は,長く西宮市に住んでいた関係で,報徳学園をずっと応援してきました。今回の選抜高校野球では,ベスト4に残っています。試合はハイライト版でしかみていませんが,高校野球はテンポがよいので,明日の試合は観戦してみましょうかね。兵庫県では,もう一校,母の母校である社高校も出ていましたが,惜しくも初戦敗退でした。報徳学園は,現在広島カープで活躍している小園選手がいた6年前にベスト4に進出しており,それ以来のベスト4です。明日の相手は大阪桐蔭で強敵ですが,東邦や仙台育英などにしぶとく勝ってきたので,接戦に持ち込めればチャンスがあるかもしれません。秋の近畿大会の決勝では1対0で敗れており,雪辱をしてほしいです。
 報徳学園といえば,1974年に,住谷投手・東投手の継投で,春の選抜で優勝したときのことが印象的ですし,私の同世代の金村選手が投手で4番の大車輪の活躍で夏の大会で優勝したときのことも印象的です。「逆転の報徳」ということは,子供の頃からよく聞いていました。私が生まれる前の1961年の夏の大会での倉敷工戦。延長戦に入り,表に6点取られたのですが,裏に6点をとって追いついて,次の回にサヨナラ勝ちした試合がありました。これ以降,この逆転劇はずっと語り継がれており,しばらくの間は,報徳学園が出場したときには,負けていても逆転があるのではないかという期待がありました。1981年に金村で優勝したときの3回戦も,この期待に応えてくれた試合でした。あの荒木大輔(当時は2年で背番号は11)の早稲田実業が相手で,8回表で4対0となっていました。早稲田の攻めがよく,明らかに劣勢で,さすがに荒木から4点以上をとることは難しく敗色濃厚でした。しかし,8回裏に1点を入れ,最終回。金村のヒットから始まり3点を入れて同点としました。そして12回裏,再び金村の2塁打をきっかけに,サヨナラ勝ちでした。思い出深い試合です。その後,2002年の春にも,報徳学園は優勝しています。さて21年ぶりの優勝となるでしょうか。

2023年3月29日 (水)

マスクの弊害

 産政研フォーラムの最新号(136号)で,大竹文雄さんが連載中の「社会を見る眼」は,「マスクの弊害」というタイトルで,マスク着用が高度の知的判断をする仕事では生産性を低下させるということが,紹介されていました。チェスのプレイヤーに関する分析結果によるものですが,その原因は解明されていないものの,注意力の低下による可能性が高いということでした。そして,大竹さんは「非常に高度な認知能力を使うような仕事をする際には,マスクを着用しないで行うことがよさそうだ。職場でも工夫していきたいものだ」と結んでおられます。
 藤井聡太竜王(六冠)の将棋などをみていると,マスクの影響はまったく感じられないようにも思いますが,もしマスクがなければもっと良い手を指していた可能性がないわけではありません。ただ注意力の問題だけであれば,慣れの部分がありそうです。私も外でマスクをして話すのは最初は嫌だったのですが,そのうちに着用していることを忘れていることもあります。たぶん集中してしまえば,マスクはあまり関係がないのかもしれません。
 むしろ私は他人がマスクをしているかいないか,というようなことが気になって,集中力がそがれてしまいます。さらに,会話では,マスク越しでは他人の声が聞こえにくいことがあるし,自分が話すときに声を張り上げなければならないのもイヤです。マスクを着用しなくても大丈夫という状況がない以上,対面型の仕事でマスクをつけるかどうかですったもんだするよりも,テレワークでやったほうがよいと思います。テレワークの効用では,これまで挙げてこなかった点ですが,マスク着用による生産性の低下を防ぐという点やマスク着用をめぐる種々のストレスという点も追加してよいような気がしてきました。大竹さんのお考えとは違うインプリケーションかもしれませんが。
 ちなみに将棋のマスク不着用の反則については,社会問題にもなりました。A級順位戦という大事な対局で反則負けになった佐藤天彦九段はぎりぎり降級を免れたから,まだよかったですが,もし降級になっていたら,話はもっとこじれていたかもしれません。その後,日浦市郎八段が,正面から反マスク行動(鼻出し着用)を取って,反則負けが続き,3ヶ月の対局停止処分を受けました。こちらのほうは,将棋連盟は,手続をきちんとふんでやっており,やむを得ないでしょう。もし,日浦八段が,マスクを鼻でおおうと注意力が下がり,よい将棋が指せなくなり,それはファンの方に失礼である,感染防止は口の部分を覆えば十分であり,鼻まで覆わせるのは過剰な規制である,鼻の部分は自身の感染防止のためであるので,それをするかは自分で判断する(日浦八段は2021年にコロナ感染しています),とでも言っていればどうだったでしょうかね(日浦八段がどのような弁明をしたかはわかりませんが)。もっともHPをみると,日本将棋連盟は,高い公共性が求められる公益法人として政府の方針や方針に則った対応をするという権力に従順な姿勢を示しており,棋士も連盟に属する以上はそれに従わざるを得ないということでしょう(https://www.shogi.or.jp/news/2023/02/post_2256.html)。棋士の世界では,日浦八段のような行動をとる棋士もいなければ面白くないのでは,とも思いますが,これは無責任かつ不謹慎な発言でしょうかね。

2023年3月28日 (火)

献本御礼

 唐津博先生から,『労働法論の探究―労働法の理論と政策』(旬報社)をお送りいただきました。どうもありがとうございました。はしがきを拝見すると,古稀を迎えられて,一区切りとして,これまで公表されてきた論文をまとめられたようです。収録されているものは,すでに読んだことがある論文ですが,改めて拝見すると,唐津先生は労働法の伝統的な考え方に忠実に,手堅い議論をされていることがわかります(それゆえ,少し面白みがないところもあるのですが,論文とはそういう面白みを追求するようなものではないということでしょう)。はしがきでは,ご自身の議論の基本的スタイルを,「憲法を基礎づけるデモクラシーの理念のもとに整備,展開されるべき労働関係・労使関係の法理論と法政策・法制度の相互作用・調整を構想して,個人の自由・自立と自律・自治を起点かつ基点とする労働法ルールの可能性を探る,というものである」と書かれています。「個人の自由・自立と自律・自治を起点かつ基点とする」というところに特徴があるかもしれませんが,この基本的な考え方にはまったく異論はありません。ただ,これをどのような方向で具体的に議論を展開していくかによって,いろいろ立場が分かれていくのでしょうね。唐津先生には,結果として,私とは学説的に相容れないところが多いのですが,拙著を丁寧に紹介していただいたこともあり,よき理解者であったと(勝手に)思って感謝しています。かつて関西労働法研究会のあとの飲み会で,原因は忘れましたが,何か学問的なことで,顔を真赤にして若手に説教していた姿が思い出されます。学問に熱い情熱を注いでこられた唐津先生も,もう古稀だと思うと,ときの流れは早いなと思わざるを得ません。

 もう一冊,唐津先生も共著者となっている,浜村彰・唐津博・青野覚・奥田薫子『ベーシック労働法(第9版)』(有斐閣)も,著者の皆さんからお送りいただきました。ありがとうございます。第9版というのはすごいですね。「シンプル・イズ・ザ・ベスト」というコンセプトで執筆されたと書かれていますが,内容も充実していて,十分に専門的な学習のための基本書として活用できると思います。定評ある安枝・西村のプリマ・シリーズに近いタイプのような気がしました。

 

 

2023年3月27日 (月)

労働組合法上の労働者概念

 先日の神戸労働法研究会では,Uber Japanほか事件の東京都労働委員会命令について議論をしました。ここでは細かいコメントを差し控えますが,この命令は,労働者性を肯定する結論が先に決まっていて,理由はそれに合わせたという印象は否めませんね。ただ,労働者性の判断は往々にしてこういうものになるので,結論の妥当性が正面から問題となるといえそうです。
 ところで,労組法上の労働者性については,契約内容の一方的決定が判断要素の一つに挙げられています。契約内容が一方的に決定されていて,決定されている側の当事者が多数であれば,団体交渉によって契約交渉するのになじむというのは一般論としては理解できます。拙著『雇用社会の25の疑問(第3版)』(2017年,弘文堂)で,イタリアの鉄道会社と乗客たちの団体交渉の例をあげています(第5話「労働者には,どうしてストライキ権があるのか。」55頁を参照)が,団体交渉には,いろんなタイプのものがありえるのです。契約内容の一方的決定が団体交渉に適しているということであるとすると,約款を使っているような契約の多くは団体交渉に適したものとなります。もしそうでないとするならば,労働にかかわる契約条件であるところに特殊性があると考えるべきなのでしょうかね。それでも従属的な労務提供者であればわからないわけではありませんが,従属性が希薄であっても,労働者に含むというのが通説の考え方ですので,そうなるとやはり疑問が残ります。
 日本法では,労働組合以外の団体交渉については,事業者協同組合のように相手に団体交渉義務がある場合でも,交渉拒否に対して不当労働行為として団交命令がでるというような特別な手続はありません。そうだとすると,そこに労組法上の労働者の特殊性を見いだすことができるかもしれません。ジュリストの論文(「フランチャイズ経営と労働法―交渉力格差問題にどう取り組むべきか」ジュリスト1540号(2020年)46頁以下)でも書いたように,労組法上の労働者概念はもともと広い意味で捉えられていたのですが,不当労働行為の行政救済制度が導入されたところで,労働者概念は限定的に解す必要が生じたのではないかと思うのです。どの研究者からも相手にされていない見解ですが(私の場合,こういうものがたくさんあって,引退前に一度まとめてみたいと思いますが),世の中にたくさんある団体交渉適格のあるもののなかで,あえて不当労働行為による救済制度が必要なものはどれかという視点でみると,労組法上の労働者概念は広いという前提は疑う余地があり,労働組合の資格審査(5条1項)において審査される労働組合の定義(2条)における労働者(3条)の範囲は,もう少し限定されるべきという考え方もできないわけではないと思っています(兵庫県労働委員会でそういう立場がとられているわけではなく,あくまで研究者としての一私見です)。そうなると,労組法上の労働者概念と労基法・労契法上の労働者概念が違うという考え方からして見直す必要があるのではないかと思えます。

 

2023年3月26日 (日)

大相撲

 大相撲は霧馬山の逆転優勝でした。大栄翔は,本割も優勝決定戦も勢いよく攻めていきましたが,霧馬山の足腰の良さに負けましたね。霧馬山は大関の力はあるでしょう。御嶽海はだめになっちゃいましたが,正代は復活しました。不思議な力士です。北青鵬は,かつての貴ノ浪を思わせるような豪快な相撲が魅力ですね。
 今場所は,いつも応援している地元の貴景勝の綱取り場所でしたが,怪我で途中休場してしまい残念でした。来場所は一転してカド番です。貴景勝は,応援してはいるのですが,ほんとうは,彼の相撲内容はあまり好きじゃありません。押し相撲一辺倒というのは,単純すぎて相撲の面白さがあまり出てきませんよね。電車道で押し切ったらよい相撲と言われるのですが,それよりも四つに組んだ投げの打ち合いのような相撲のほうが個人的には好きです。その点では,モンゴル人は逸ノ城や照ノ富士は別として,優勝した霧馬山や10勝した豊昇龍のように,わりと細身だけれど,粘りのある四つ相撲で盛り上げてくれる人が多いような気がします。若隆景や若元春の兄弟も面白い相撲をしてくれて好きですが,若隆景は怪我してしまいましたね。
 朝乃山は,十両東の筆頭で13勝し,再入幕となりそうです。ただし幕内下位の負け越し者が少ないので,まさかの見送りがないわけではありません。逸ノ城が東3枚目で,141敗の優勝で,朝乃山にも勝っているので,再入幕はほぼ確実です。朝乃山もたぶん再入幕すると思いますが,そうなると来場所は逸ノ城とそろって大勝ちして,一気に上位に駆け上がってくるでしょうね。朝乃山は,いまの上位陣をみていると,あっという間に大関に復帰できるかもしれませんし,そう願って応援している人は少なくないでしょう。

2023年3月25日 (土)

男性の育児参加と絵本のジェンダーバイアス

 先日の日本経済新聞の「大機小機」で,少子化対策として,男性の育児参加の推進が必要ということが書かれていました。そこにあるように若者の意識は変わってきていて,ワーク・ライフ・バランスへの配慮がない企業は敬遠されるであろうというのは,そのとおりだと思います。
 ところで,政府の人たちは,子どもたちのもつ絵本を読んだことがあるでしょうか。そこには驚くほど古典的な「家事や育児は女性」を前提としたストーリーが,日本のものも海外のものも関係なく,描かれています。こういうものを子どもたちは読み聞かされて育つということを知っておいたがほうがいいでしょう。もしかしたらバリバリ働いている人は,なかなか子どもにゆっくり絵本を読んであげる時間がなく,保育園に任せてしまっているのかもしれませんが,少しでも絵本を読んでいると,すぐに大きな違和感をおぼえることでしょう。男性の育児参加を進めるうえでの支障とまでは言えないかもしれませんが,男性が子どもに読んであげる絵本のなかでの男性不在ぶりを感じると,なんとなく気持ちが盛り上がらないということもあるでしょう。一例として,Pat Hutchins作の『The Doorbell rang』(日本語版の題名は『おまたせクッキー』)という本がありますが,人種の平等性への配慮はあるのですが,クッキーを焼くのはお母さんとお祖母さんという前提(性別役割分担?)で,大人の男性が出て来ない話です。家事は女性であることに何も疑問がないかつての時代の話が読み継がれているのでしょうか。この絵本自体は,とてもよい内容で素晴らしいです(算数の勉強にもなります)が,時代感覚が古い感じがしますし,同様のことは多くの古き良き絵本にみられます。
 少子化対策は,前に書いた不妊治療への助成(20224月から保険適用がされてずいぶん改善されたといえますが,まだやれることはあると思います)以外にも,意外なところに盲点があって,やれることが眠っているかもしれません。金銭をばらまくことだけではなく,もっと知恵を集めてみてはどうでしょうか。金銭的なことが必要かと問われれば,誰でも必要と答えるのですが,それにとどまらず,実は思わぬところに男性育児の阻害要因があって改善できることがあるかもしれないのです。官僚や政治家の男性に育児経験者を増やすことこそ,最も効果的な少子化対策かもしれませんね。

2023年3月24日 (金)

シンポジウム

 今日は,神戸大学の社会システムイノベーションセンターで,「労働プラットフォーム」をテーマとしたシンポジウムをオンラインで開催しました。社会システムイノベーションセンターのプロジェクト(「文理融合型アプローチによる法経連携法政策学研究」)の一環で,何か労働関係でテーマはないかということで相談されたところ,年度末ぎりぎりですが,今回のシンポジウムを提案して,開催することができました。聴衆の皆さんには感謝申し上げます。またプロジェクトのメンバーの先生方に加え,ゲストとして登場してくださった柳川範之先生と中田邦博先生には心より感謝申し上げます。中田先生はドイツからの参加でした。また神戸大学の卓越教授の肩書きをおもちの善如悠介先生はオーストラリアからの参加でした。国外からの参加者は時差があって大変だったかもしれませんが,国内のどこかの部屋から接続されているのと同じような感じで議論ができました。オンラインで海外とつないだシンポジウムは初めてだったのですが,こういうことであれば,ほんとうにいちいち海外に行く必要はないなということを,改めて確認できました。
 内容のほうは,ここでは紹介できないくらい盛りだくさんです。経済学の人が,デジタル労働プラットフォームについてどう議論をするのか知りたかったので,非常に刺激を受けました。また中田先生には消費者保護の観点から議論してくださり,私とは見解が合わないところも所々ありましたが,でもとても勉強になりました。今回のシンポをきっかけに,いっそうインターディシプリンな研究を深めて,政策提言につなげていければと思っています。

2023年3月23日 (木)

研究者の仕事

 佐藤博樹さんから,中央大学のビジネススクール(CBS)の定年退職に合わせた「最終報告」のパンフレットをお送りいただきました。私と比較的近い世代の先輩の研究者に,そろそろ定年の人が増えてきていて,少し寂しい感じがします。佐藤さんとは,日本労働法研究雑誌に同時期に編集委員をさせてもらったことがあります。編集委員時代の10年少しの経験は,私の研究人生に大きな影響を与えたと思います。JILPTにはたいへん感謝しています。私が編集委員となったのは,2000年か2001年くらいだったでしょうか。たしか山川隆一さんの後任で,荒木尚志さんと一緒にやったような記憶があります(荒木さんのあとは,中窪裕也さん,水町勇一郎さんと一緒でした)。労働法以外の分野では,佐藤博樹さん以外に,中村圭介さん,佐藤厚さん 大竹文雄さん,玄田有史さん,守島基博さん,藤村博之さんたちがいたと思います。錚々たるメンバーですね。これで刺激を受けないはずがありません。
 佐藤さんからは,編集委員を辞めたあとも,直接,あるいはご著書から,いろいろ教えていただきましたし,昨年の9月には一緒にセミナーをやるなど,これまでも役所関係の仕事や講演などで一緒になることがありました。
 今回いただいた「最終報告」の冒頭に,日本労務学会誌に特別寄稿された「問題の解決の『鍵』は現場に―実証的な労働研究」という論考が掲載されていました。そこでは,佐藤さんがこれまでの研究を振り返っていますが,若いころから,現場を重視した研究を一貫してやってきたことがよくわかります。企業の人材活用のあり方を現場の情報を収集しながら分析し,さらにある頃からは政府の場でも主導権を発揮してこられました。労働組合研究,正社員以外の多様な働き方,人材サービス,両立支援・ワーク・ライフ・バランスなど,研究テーマは,労働政策の主要課題を先取りしたものでした。研究者として理想的な仕事をされてきたのだなと思いました。
 現在の研究テーマとしては,柔軟性・知的好奇心・学習意欲の3つを具備した社員の育成,および,仕事をする時間と仕事をしない時間のバウンダリー・マネジメントを挙げておられます。どちらも重要なテーマです。社員育成の3つの要素は,佐藤さん自身がまさにもっているものでしょう。バウンダリー・マネジメントの鍵は,DXであると思っていますが,佐藤さんたちが,どのような研究成果を出されるか楽しみにしています。

2023年3月22日 (水)

WBC優勝

 今日は暑い日でした。神戸もちらほら桜が咲いています。東京は満開のようですね。
 先日はWBCの試合が長すぎることから始まって,野球は野蛮であるとまで言って悪口を書いてしまいました。基本的にはそういう認識は変わっていませんが,幼いころから野球文化に洗脳されている私は,やっぱり良い試合をみると感動してしまいますね。準決勝のメキシコ戦は,ときどきネットで試合経過を確認していたあと,そろそろ画面でみようかと思ってつけたら,吉田選手のスリーランが出てびっくりしました。前にも書きましたが,阪神タイガース以外のチームで,最も応援しているのがオリックスにいた吉田選手でした。嬉しかったですね。大リーグでも活躍するでしょう。その後,阪神の湯浅が打たれるなどして,差がつきました(でも吉田の好返球があって最少失点に抑えることができて助かりました)が,最終回にドラマが待っていました。大谷選手の二塁打は気合いが入っていました。最後の村上選手のサヨナラヒットは,日本中を感動の渦に巻き込みましたね。観ているほうも,打てない村上と一緒に苦悩していたので,感動はひとしおでした。その途中で,岸田ウクライナ訪問の速報が入り,少し驚きましたが,観戦しているほうは,それどころではありませんでした。決勝戦も,途中までは同じようにネットで試合経過を確認する感じでしたが,昼休みに入ろうとPrime Videoにつなげば,ちょうど最終回となっていて,大谷がマウンドにいました。ということで,一番良いところは観戦できました。1番から3番を不動とし,4番と5番の入れ替えはあったものの,6番の岡本も含めて,上位打線がほぼ固定できたのがよかったですね。栗山監督は,日ハムの監督時代から,結果を出せる監督だと思っていましたが,今回もお見事でした。今回は,阪神の選手はあまり目立ちませんでした(中野選手は,骨折した源田選手に勝てなかったということを,よく反省して守備を鍛えてほしいです)が,WBCに出場すると,どうしてもその影響で出遅れてしまうので,むしろ良かったと考えましょう。
 それにしてもNHKは今日の夜のニュースのトップがWBC優勝で,岸田首相のウクライナ訪問関係のニュースよりも先であったのは驚きです。いくらなんでも,これはちょっとおかしくないですかね。

2023年3月21日 (火)

議員のポストの軽さ

 アメリカの前大統領で,次期大統領に出馬を表明している人に逮捕の噂が流れたり,ロシアの「皇帝」的大統領に国際刑事裁判所から逮捕状が出されたりするなど,普通ならびっくり仰天しそうな話だと思いますが,誰もそれほど驚かないような世界になってしまいました。日本でも,参議院議員から,一転して逮捕状が出されて「お尋ね者」になった人がいました。三人は嫌疑の内容も社会的な地位や重要性も異なるのですが,要するに,こういう人であっても(もちろん有罪と決まったわけではありませんが),選挙というものがあると選ばれてしまうことがあるというのが民主主義です。
 ところで,経済安全保障担当大臣の高市早苗氏は,立憲民主党の小西洋之議員からつきつけられた,放送法関係の文書(小西文書)について,国会において,その内容が真実であれば議員辞職をすると言ったそうです。真実でない自信があったからかもしれませんが,私には,議員のポストを軽く考えているのではないか,という気がしてしまいました。自信があれば,堂々と論駁すればいいだけです。放送の中立性はとても重要なことです(アメリカのようにメディアは正しいことを伝えないというような国になってしまっては困るのは確かです)が,かりに文書の内容が真実であっても,総務大臣はもとより,大臣適格性に欠けるということはいえても,議員を辞めるほどのことではないと思います。簡単に議員のポストを賭けてしまうという点に,このポストを軽く扱っているなという印象をもってしまったのです。2021年の衆議院選挙の結果をみると,奈良2区で彼女は圧勝でした。辞職しても,次の選挙でまた勝てるという自信があるのでしょう。もちろん辞職する気はないのでしょうが,緊張感のなさが,議員辞職という言葉が簡単に出てくる背景にあるのではないかと思います。そして,そういうことを言うこと自体,もしかしたら議員にふさわしくないように思えてきます(どうも奈良知事選をめぐる自民党内の争いのようなことも,この騒動の背後にはありそうですが,ほんとうのところは,よくわかりません)。
 それだけではありません。安倍元総理も,森友問題で,簡単に議員辞職を口にし,その辻褄合わせをするために財務省が忖度した結果,赤木事件が起きてしまったと言われています。安倍さんも,選挙に負ける可能性は実質的になかったから,簡単に議員ポストを賭けることができたのかもしれませんが,議員ポストを賭けるのは,普通の人はとても深刻に受け止めるので(だらかこそ,その発言が効果的でもあるのですが),赤木事件という悲劇が起きたのかもしれないのです。安倍さんのケースでも,森友問題は大きいことですが,妻がしたことにすぎないので,総理大臣を辞めるのはともかく,議員ポストを賭けるほどのものではなかったように思います。死者に鞭打つ気はありませんが,やはり軽率な発言でした。何も仕事をしようとせずに除名されてしまうような議員と同様,議員辞職を軽々しく口にするような大臣や議員も,国会を軽視していると言われても仕方ないでしょう。
 話は変わりますが,上記の放送関係で問題発言をしたとされる磯崎洋輔という元議員(当時は安倍さんの側近の首相補佐官)は,私が気にいっていたNHKの「ちむどんどん」の内容を酷評し続けていた人ですね。テレビ番組にいろいろと文句を言いたい人のようですね。

2023年3月20日 (月)

ディオバン事件に思う

 低気圧が来るときは,軽い頭痛が出て,立つとふらっとすることがあるのですが,そういうときは血圧を測定すると,驚くような高さになっています。どの程度の血圧が高血圧なのかについては,かつては年齢+90と言われていて,それであれば安心することもあるのですが,もっと低いという情報もあります。高血圧の基準を低くすれば,降圧剤がよく売れるそうです。そうなると,高血圧の基準は,ひょっとして営利目的で適当に設定されているのではないかという疑念も抱きたくなります。
 そんなことを考えるのは,製薬会社も医学研究者も,営利のためなら何でもやりかねないという不信感があるからです。それは,10年以上前のことですが,大手製薬会社のノバルティスファーマの降圧剤であるディオバン(一般名は,バルサルタン)について,臨床データ不正の事件があったことと関係します(同様の不正事件は,この事件だけではないのですが)。この事件では,この製薬会社の社員が大学の研究者に不正なデータを提供し,それに基づいてその研究者が論文を権威ある学術誌に出して掲載され,そのいわばお墨付きに基づいてディオバンが大ヒットしていました。データ不正を見抜けなかった研究者の責任は重いように思いますが,これをあまり言うと,STAP細胞の笹井教授のようなことが起こりかねません。
 このディオバン事件では,製薬会社とその社員が起訴されて,大学の研究者は検察の証人側に回ったようです。起訴の理由は,薬事法(現在は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律)66条1項違反で,同項は「何人も,医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器又は再生医療等製品の名称,製造方法,効能,効果又は性能に関して,明示的であると暗示的であるとを問わず,虚偽又は誇大な記事を広告し,記述し,又は流布してはならない」と定めています。これに反すると刑罰が科され(85条),法人に対する両罰規定もあります(90条)。問題となったのは,学術論文に掲載させたことが,66条で禁止されている広告に該当するのかです。2021628日に出た最高裁の第1小法廷判決(平成30年(あ)1846号)は,同項の規制する「記事を広告し,記述し,又は流布」する行為とは,「特定の医薬品等に関し,当該医薬品等の購入・処方等を促すための手段として,不特定又は多数の者に対し,同項所定の事項を告げ知らせる行為」であり,学術雑誌への論文の掲載は,「特定の医薬品の購入・処方等を促すための手段としてされた告知とはいえない」として,原審の無罪判決を支持し,上告を棄却しました。山口厚裁判長(刑事法の専門の元東大教授)は,補足意見として,「本件におけるような学術論文の作成・投稿・掲載を広く同項による規制の対象とすることは,それらが学術活動の中核に属するものであり,加えて,同項が虚偽のみならず誇大な『記事の記述』をも規制対象とするものであることから,学術活動に無視し得ない萎縮効果をもたらし得ることになろう。それゆえ,その結果として,憲法が保障する学問の自由との関係で問題を生じさせることになる。このことを付言しておきたい。」と述べています。
 憲法学の観点からは,薬事法661項は,広告規制であり,言論・表現の自由を制限するという視点が問題となります。また学術論文への掲載の準備段階でのデータにおける不正を問題とする点では,学問の自由にも関係しうるものです。もちろん不正行為が許されるわけではないのですが,今回の問題の背景には,論文を執筆した研究者側と製薬会社側との間のズブズブの関係がありそうです。私たちが求めているのは,正しいデータに基づき効果が確認された薬が使われるようにすべきということなのであり,それさえできれば研究者と業界が協力するのはかまわないと思うのです。本事件後に,臨床研究法が制定されて,一定の対応が取られているようです(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000163417.html)が,根本的には,研究者のモラルにかかっているのかもしれません。データを提供した側が,営利企業の社員であることからすると,そのデータを活用した論文を書くことの危険性はわかっていたはずです。その道義的,あるいは学術的な責任は重いような気もします。今回,最高裁は,こうした事例に刑事罰を発動することがもたらす,まっとうな学術活動への萎縮的効果を心配し,適切な処理をしたと考えられますが,これは良い裁判長であったことにも関係しています。違う裁判官であれば,薬は人の生命や健康にかかわるようなことである以上,その責任は重いとして,66条1項の構成要件を広く解釈する立場をとることもあるかもしれません。日本国憲法には明文で規定はないものの,健康の権利は,憲法13条の幸福追求権や25条の生存権に含まれているとして,表現の自由や学問の自由と匹敵するものであるというような視点で解釈すると,今回の最高裁判決とは違った結論が出てくるかもしれません。もちろん,こういう解釈はやや無理があるのかもしれませんが,社会を大きく騒がせ,医師の処方する薬に対して重大な不信をもたらした事件であることを考慮すると,関与した研究者たちは,表現の自由や学問の自由にとてつもない大きな危険をもたらしたということを,よく自覚してもらわなければならないでしょう。たんに製薬会社側が無罪になったのはけしからんというようなことではなく,そして裁判所がそうした社会に漂う情緒的なムードに流されずに冷静な判断をしたことは,法の番人としてきわめて重要なことであるのですが,一方で,私たちはほんとうの問題は何であったかをしっかり見極めることが必要であるように思います。いずれにせよ,研究不正について,法がどのように関わることができるかを考えるうえで,きわめて興味深いテーマを提示した事件だと思います。
 さて,高血圧はやはり怖いのですが,血圧を下げるのは,できるだけ薬に頼らずに,運動や食事によって頑張りたいです。

*憲法の議論については,木下昌彦「研究不正と営利的言論の法理ディオバン事件における薬事法661項の解釈論争を素材として」論究ジュリスト2568頁(2018年)を参照。
*業界の事情については,上昌広『医療詐欺』(講談社+α新書)の第1章「先端医療と新薬を支配する『医療ムラ』は癒着と利権の巣窟」を参照。

2023年3月19日 (日)

藤井デー

 今日は藤井デーでした。NHK杯の決勝戦は,A級昇進を決めたばかりの(収録番組なので,実際の対局はその前ですが)佐々木勇気(新)八段相手に快勝でした。あまりにも強すぎます。最後は美しく詰ましました。これでちょっと苦手にしていたNHK杯でも初優勝し,なんとこれで今年度は一般棋戦(朝日杯,銀河戦,JT日本シリーズ,NHK杯)は4つ全連覇となりました。これは羽生善治九段の全盛期でも達成できなかった偉業です。2011年に羽生九段(当時は,棋聖と王位の二冠)は,銀河戦以外の3棋戦で優勝したことがありましたが,それが最高でした。藤井竜王(五冠)は,あっさり達成してしまいました。
 そして夜には,棋王戦第4局。前回,まさかの詰み逃しで敗れましたが,その影響は感じられません。渡辺明棋王(名人)は,いろいろ仕掛けてきましたが,冷静に受け止め,最後は相手の攻めをかわして,一気に勝勢を築いてしまいました。これで31敗で,渡辺棋王の11連覇を阻止し,六冠達成です。渡辺は最後のタイトルの名人の防衛をかけて,4月から藤井竜王(六冠)の挑戦を受けることになります。
 藤井竜王は,先の王将戦でも,羽生善治九段に勝ち,防衛を決めていました。羽生九段は22敗まで行って善戦しましたが,力尽きました。しかし,親子ほどの年の差のある藤井王将相手に,必死に挑んでいく姿は将棋ファンに感動を与えました。羽生九段は,藤井をライバルと感じ,そしてその影響を受けて,さらに強くなっているような印象があります。このことは,順位戦の最終局で,A級昇級を決めた中村大地(新)八段に,快勝したことにも現れています。
 五冠をすべて防衛した藤井竜王は,今日,六冠となりました。そして,これから七冠に挑むことになりますが,その間も防衛戦は続きます。叡王戦の挑戦に名乗りを上げたのが,菅井竜也八段です。A級順位戦では藤井竜王(六冠)に勝っており,勝負はどうなるかわかりません。藤井竜王(六冠)からひょっとしたらタイトルをとれるかも,という期待を最ももたせてくれるのは,現時点では,将棋のスタイルがまったく異なる振り飛車党の菅井八段かもしれません。
 叡王戦以外にも,王位戦と棋聖戦がやってきます。もし名人を奪取し,他棋戦を防衛すると,残すは永瀬拓矢王座のもつタイトルだけとなります。2022年度は無敵の強さをみせましたが,2023年度は,どうなるでしょうか。夢の八冠が実現するでしょうか。そんなに甘い世界ではないと思いますが,藤井竜王(六冠)は進化し続けているので,実現可能性はかなり高いと思われます。

 

 

2023年3月18日 (土)

子育てとテレワーク

 岸田首相は,子育て政策を中心に据えて支持率の回復に向けて活路を見いだそうとしているようです。子どもを大事にする政策は,昨日も書いたのですが,バラマキやイメージ戦略だけにとどまるのであれば困るのですが,そうでない本当に役立つものであれば大歓迎です。神戸市と隣の明石市とを比較して,育児世代においては,明石市の取組みが魅力的で(https://www.city.akashi.lg.jp/shise/koho/citysales/index.html ),ちょっと田舎というイメージの明石市(明石市民の方,スミマセン)にでも住みたいという人が多いように思います。収入的にまだ十分に高くない若い世代において,子どもが一人生まれたときに,急に負担が重くなるのは辛く,そこで自治体からの助成があれば助かるのは当然です。泉房穂・明石市長に対しては毀誉褒貶が激しいようですが,私は応援したいですね。財源と給付を明確にして,そのうえである程度のリーダーシップをとって実績を上げるというのは,当然やるべきことですが,簡単なことではありません。もちろん,明石市も,どこかに負担がかかっていて,その問題点がいつかは顕在化するかもしれませんので,最終的な評価がどうなるかわかりませんが,何かやってくれそうな市長という点で,私は明石市民ではありませんが,関心をもってみています。加古川市長とやりやっているようですが,それも含めて,良い意味での競争をしてもらえればと思います。泉さんは,政治家を辞めるそうですが,このままあっさり引っ込むとは思えませんね。彼のような人を必要としているところは,多いでしょう。
 ところで,今朝の日本経済新聞で「女性の力が生きる地方議会に」というタイトルの社説がありましたが,問題意識は私も共有しています。子育ての問題も含めて,女性の視点を政治や行政の場でもっと反映させたほうが,大きな改善を期待できます。そして,子育ても,女性の地方議会進出も,テレワークが重要なポイントになると考えています。
 テレワークをうまくできれば,賃金を減らさず,キャリアを中断せず,仕事を継続できます。収入不安の問題がなくなるのです。現状では,テレワークができない企業や業種や職種も多いのでしょうが,ここにもっと力を入れるべきなのです。これが子育て問題への対処として最も効果的なものだと思っています。地方議会についてもテレワークの効果は大です。テレワークにより,地方政治に関心をもつ人が増えると思われるからです。自分の家にいる時間が長くなれば,住む地域の問題への関心が高まり,そうしたところから,地方政治の活性化が生まれるのだと思います。そして,女性はもともと男性よりも家にいる時間が長かったとすれば(それが良かったかどうかはさておき),そうした女性が地方政治に参加しやすくするようにすることもまたとても大切です。女性やテレワークにより居住地に戻ってきた男性・女性が増えることが,自分たちの住んでいる地域を良くするためにも必要なことなのです。かりに女性が家事に忙しいとしても,やはりテレワークができれば,議員活動をしやすくなるでしょう。
 ということで,子育て問題の解決についても,地方議会の問題についても,テレワークの推進をぜひ政策課題に入れるべきです。しかし,政権中枢にいる人は,誰もテレワークをしていないでしょうから,そういう問題意識は出てこないかもしれませんね。

 

2023年3月17日 (金)

アベノマスクと良い政治

 一昨日の晩は,鼻が苦しくてよく眠れなかったので,昨晩はとにかく眠らなければしんどいということで,葛根湯,パブロン,喉のトローチ,ヴィックスヴェポラップ(使用期限を大幅に経過しているのですが…)を総動員し,さらにあのアベノマスクをつけて眠ることにしました。それぞれが,どの程度,効果があったのかわかりませんが,昨晩はそれほど苦しまずに眠ることができました(しかし,今日は咳が少しひどくなっています)。マスクをして寝るのは,耳が痛くなるので,これまで避けていましたが,意外に大丈夫でした。アベノマスクに,ようやく使い道がみつかってよかったです。あの小ささがちょうどよかったのですが,とはいえ,日常つけるには適さないのであり,あんなマスクを大量にばらまくという馬鹿なことをよくやったものです。
 政府は,国民は何かばらまけば喜ぶと思っているのでしょうかね。確定申告をする時期は,毎年,税金を払っている人(還付を受けている人もいるでしょうが)にとって,税金のことを改めて感じる時期となるでしょう。今朝の日本経済新聞で,育休夫婦の収入を実質全額保障するという方針を政府が打ち出すことが書かれていましたが,財源は今後詰めるということで,これは空手形のようなものです。財源を決めてから発表してほしいですね。最後はやはり雇用保険制度のなかでということになるかもしれませんが,この制度は労働者拠出もあるので,最後は労働者の負担にかえってきます(企業負担もあります)。それでもいいですよね,という問いかけをすべきでしょう。首都圏の鉄道会社が,バリアフリーの推進に使う財源のために運賃を10円値上げするということが報道されていましたが,こういうのであれば,国民の多くは負担に納得するでしょう。
 政府は,給付を寛大にする前に,納税者や保険料の負担者に了解を得ることが必要です。自分のポケットマネーではないということを,しっかり自覚してもらう必要がありますね。ほんとうは野党がチェックすべきなのでしょうが,野党もバラマキ系なので,政治家に任せていると,バラマキ合戦が起こるだけです。だからこそ,もう野党には期待せず,与党の自覚に期待したいと思っています。与党の政治家のなかにも,財源を考えたうえでの本当の意味で国民のためになる政治をしたいと考えている良心的な人はたくさんいると信じたいです。甘いかもしれませんが。

 

 

2023年3月16日 (木)

 別に油断していたわけではないのですが,風邪をひいたみたいです。熱はないのですが,鼻がムズムズして,頭が重く,ときどき咳も出て,肩も腰も痛くなり,つらいです。コロナかインフルかという不安もありますが,熱がないので,たぶん違うでしょう。五十肩も完治しておらず,ちょっとボロボロですが,少し休むようにということなのかもしれません。すぐに締め切りのある仕事もなかったので,助かりました。
 
熱がないので,花粉症である可能性もあります。花粉症という自覚はないのですが,花粉の多い時期に,頭痛が出たりするので,花粉が何か 悪さをしているのかもしれません。
 日頃,鼻呼吸をしようと心がけているのですが,花粉を抑えるためにも,鼻には頑張ってもらいたいです。鼻の機能は,空気をとりいれる,匂いをかぐというだけでなく,呼吸をするときの際のフィルター,湿度調整,温度調整もしてくれています。鼻はとても大切であり,いたわらなければならないのでしょうが,いたわり方がよくわかりませんね。鼻にしばらく休んでもらうというのは難しいです。

 

 

2023年3月15日 (水)

日本企業の将来

 昨日の日本経済新聞の「Deep Insight」(梶原誠氏が担当)の『「世界の50社」,消える日本』は,興味深く読ませてもらいました。私は日頃から,日本の企業が創造的破壊をし,革新していくことができるかについては悲観的で,インタビューや講演で話すときには,日本の組織の硬直性とその前途の暗さを嘆いています。とくに創造的破壊のために不可欠の前提であるデジタル技術の活用ができているか,それに適した人材を育成し,活用できているか,という視点でみた場合に,日本はかなり厳しい状況にあるように思います。
 記事のなかで,花王がユニチャームを追い抜いたことについて,両者の逆転は「日本の国力に対する読みとスピード感の違い」に起因するというアナリストのコメントが紹介されていました。日本の国力は着実に低下し,それにスピード感をもって対応した企業とそうでない企業との差が現れているということでしょう。
 また,コンサルティング会社のドリームインキュベータがコロナ後の世界を予測した報告書の内容も紹介されていました。報告書は,コロナ後は元の社会に戻るという楽観論を否定し,「デジタル化を筆頭に,それまで先送りしてきた課題が露呈するので変化を10年前倒しすべきであること,社会の前提が変わるので業界の構造も一変すること,顧客の価値観の変化に合わせた世代交代が避けらず,若い人や新興企業はチャンスを迎えること」というメッセージを発していると紹介されていました。この報告書の言っていることは,基本的には賛成です。私からのメッセージは,コロナは,これまでのDXの到来を早めただけで,DXによる社会の変化はコロナ前から起きていたこと,この変化は今後,加速化し,産業構造やビジネスモデルは根本的に変わり,それに対応できない企業は退場せざるを得ないこと(行政,医療,教育などがDXに対応できなければ,日本は途上国並みになる可能性があり,すでにその兆候があること),人材面では新しい価値観(本物のSDGs)をもった人が登場し,営利追求を基本とする資本主義自体が見直されるであろうこと,というものです。
 梶原氏は,「世界の顔である卓越した50社から日本企業の姿が消えている光景を今こそ想像すべきだ。見たくない現実はそこまで来ている。」と結んでおられますが,まったく同感です。

2023年3月14日 (火)

献本御礼

 アメリカの銀行破綻の影響は心配ですね。日本でも日経平均は大幅に下がり,インフレが予想されるなか,株式に投資をしようとしていた人にとっては,ちょっと出鼻をくじかれた感じですね。
 ところで話は変わり,久しぶりに大学に行くと,本が何冊か届いていました。今日は,そのうちの2冊を紹介します。一つは,有斐閣ストゥディアのシリーズの『社会保障法(第2版)』です。共著者のなかの島村暁代さんと永野仁美さんからお送りいただきました。いつも,どうもありがとうございます。社会保障法の超初心者向けの本だと思います。島村暁代さんの弘文堂の『プレップ社会保障法』と比べると,個人的には,プレップのほうがお薦めかなという気がします。やはり単著のほうがいいですね。でも,これは個人の好みですので,ぜひ読んでご判断ください。
 もう1冊は,前川孝雄『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』( 株式会社FeelWorks)です。たくさんの本を書かれている前川さんですが,いつもお送りいただきありがとうございます。今回は,「人的資本経営の現場マネジメント教科書」の決定版と表紙に書かれています。5つのステップとは,「相互理解」を深める⇒「動機形成」を図る⇒「協働意識」を醸成する⇒「切磋琢磨」を促す⇒「評価納得」を得る,というものです。いつものように,すっきりわかりやすいです。納得規範を重視する私の考えともつながるものであり,上司の方たちは,ぜひ参考にしてください。

2023年3月13日 (月)

Chat GPTのインパクト

 Chat GPTは,企業でも,活用する例が増えているようです。私も,日常的に使っています。Google検索では自分で回答を探すわけですが,Chat GPTでは,回答を教えてくれます。これにより,人々の生活は,大きく変わる可能性があります。日本のことを日本語で調べたときの正確性は低いように思いますが,それは,ネット上で流れている情報が日本語のものはまだ限定されているからでしょう。外国のことについては,かなりの正確性をもって詳細に教えてくれるのではないかと思います。もちろん私の専門の法制度の分野では,厳密なことを調べるときには信用できませんが,日常的なことについての検索は,結構,使えるようです。ちょっとふざけて,「How can I become friends with Paddington?」というような質問をしたら,まじめに答えてくれたので,相手はAIとわかっていながら好感をもってしまいました。危ないですね。
 英文の翻訳も,英語の添削もやってくれるので,学校では困るかもしれませんが,うまく味方につけて活用していかざるをえないのでしょうね。いずれにせよ,子どもたちは,こういうものを使って,普通に日常生活を送っていくことになるのでしょう。学校では,このツールを,どのように使うかということを,その危険性も含めて,しっかり教えてもらいたいです。そのためには,先生方に,まず習熟しておいてもらう必要があるでしょうね。
 話は変わり,前にレジネラオ菌のことについて書いたとき,温泉法違反ではないかと書きましたが,公衆浴場法違反だと報道されていました。なお,同法違反の事実であっても,公益通報者保護法により保護される通報対象事実となります。

 

2023年3月12日 (日)

野球について

 WBCでの日本の活躍は喜ばしいのですが,ちょっと気になるのが,試合時間が長すぎることです(開始時間が19時と遅いこともあり,余計に気になるのです)。投手の球数制限があったり(65球),日本が大量点をとって攻撃時間が長くなったりするからだともいえるのですが,それにしても長いです。私は,チェコ戦は最後まで観ましたが,その他の試合は途中までしか観ていません。長すぎるからです。サッカーやバスケットボールは,一定の時間のなかでどれだけ多くの点をとるかということで勝負を決めるスポーツなので,終了時間は予測できますが,野球はそうは行きません。タイパ(タイム・パフォーマンス)が重視される時代ですので,このスタイルでいくと,古くからのファンはともかく,新たなファンの獲得に支障が生じるのではないかという気もします。
 時間短縮のための一つの対策としては,選手交代は,いちいち審判に申告せずに,タブレットに打ち込んでおしまいということにできないでしょうか。これもDXの一つです。主審はウエアラブルの機器を装着して,バックネット裏の審判部と無線でやりとりできるようにしたらよいと思います。
  もっとラディカルな短縮方法は,三振は二振にし(英語的には,strikeout なので,3にこだわる必要はありません),ファールで粘れるのは4球までで,5球ファールとなるとアウトにし,四球は三球にする(これも英語的にはwalkなので,4にこだわる必要はありません)というようにしたらどうでしょうか。もちろん,これまでの野球に慣れている人にとっては許しがたいルール変更でしょうし,私も違和感はあるのですが,ショート・ベースボールとでも名付けてスピーディーに展開できるようにすれば,違った面白さも出てくるかもしれません。
 そもそも野球は,あの硬いボールを高速で投げるもので,本来,危険極まりないスポーツです。実際,死球によるケガというのは,つきものです(ちなみに英語では,dead ball とは言わず,hit ~by pitich と言いますが,死球のほうが感じがでています)。バットで打つという点についても,本来,バットは凶器です。プロは木製バットですが,高校野球で使う金属バットは殺人にも使われることがありました。スパイクも危険なものであり,ケガがよく起きます。ホームベース上のクロスプレーも,最近ではコリジョンルール(collision rule)があり改善されていますが,とても危険なものでした。それに大リーグでは,死球があれば乱闘騒ぎとなり,衆人環視下で殴り合いが起きます。刑事事件ものです。どうして,こういう野蛮なスポーツが広く支持されているのか,よくわからないところがあります。
 と言っても,私は野球好きです。幼いときから観ているので,洗脳されているのかもしれません。ただ,試合時間が長いということに不満を感じ始めたことから,なんとなくこのスポーツの異様さが気になってきました。

2023年3月11日 (土)

いまは震災前?

 阪神・淡路大震災が起きたときは,ちょうど東京にいたので,私自身は少し東京で揺れを感じた程度ですみましたが,東日本大震災のときは,ちょうど東京にいたので,おそろしかったです。日本労働研究雑誌の編集会議の真っ最中でしたが,たしか壁か窓にひびが入ったので,あわてて外に脱出し,新橋駅の北口に避難して,そこで互いの無事を祈りながら,解散したことを覚えています(このことは,何度も書いていますね)。あれから12年です。しかし,現在は,震災後ではなく,むしろ震災前という状況です。南海トラフ地震発生のXデーは着実に近づいているはずです。テレワークはBCP(事業継続計画)のためというのは,繰り返し言われていますが,どこまで経営者は本気になって考えているでしょうか。何とかなるというレベルではない規模の地震がくる可能性があるのです。通信や電気が切断されたらテレワークは無理ですが,それが復旧したあと,事業再開をいち早くするためにはテレワークが効果的であることは明らかです。せっかく(?)コロナ禍を機にテレワークが推奨され,その経験も積んだはずなのに,テレワークからもとの対面型に戻す動きが広がっているのは心配です。大学を含めた学校でも,リモート体制が整っていれば,震災後の早期に授業が再開できるでしょう。中央官庁の地方移転が進んでいないのも気がかりです。地震は明日にでも来るということを想定して,そのための準備をすることが,日本に住んでいる以上,避けられないことなのだと思います(別に和歌山県や高知県や宮崎県だけの話ではありません。この地震がくると,おそらく日本全土に大きな影響が及ぶことが予想されているからです)。 

2023年3月10日 (金)

名人戦挑戦は藤井竜王

 先日の棋王戦第3局は劇的な最後でした。評価値が100となったので,藤井竜王の勝利を確信してお風呂に入って出てきたら藤井竜王が負けていたので,驚きました。あの正確な寄せの藤井竜王が詰みを逃しました。おそらくテレビ局なども六冠の速報テロップを出す準備をしていたと思われますが,まさかの大逆転です。
 中2日あけて,広瀬章人八段とのA級(名人戦挑戦)のプレーオフでは,素人がみていても全く意味がわからない難しい戦いでした。こちらは見事に藤井竜王(五冠)が勝ち,渡辺明名人(棋王)への挑戦を決めました。これで谷川浩司十七世名人の史上最年少名人の記録に挑戦することになります。
 順位戦は,B2組はすでに昇級者3人が決まっているなかで,谷川十七世名人が,ここまで全勝で昇級をすでに決めている大橋貴洸七段を一ひねりしました。先日の王座戦での徳田拳士四段に続き,好調な若手相手の快勝であり,嬉しいです。鋭い踏み込みが復活している感じもします。これで今期の順位戦は55敗で終わりました。来期は昇級を目指して頑張ってもらいたいです。
 C1組は,ちょっとした事件がありました。全勝でトップを走っていて,他棋戦でも絶好調な伊藤匠五段は,順位戦も9戦全勝で二期連続昇級の一歩手前でした。しかし昇級したばかりなので順位が低く,81敗に3名いるので,この3名が全員勝って,自分が負けると,91敗で4人が並び,順位の低い伊藤五段は昇級できないことになります(昇級できるのは3名)。とはいえ,最終局の相手は,27敗で降級点争いをしていた阪口悟六段で,今期の成績やこれまでの実績を考えても,ほとんどの人は伊藤勝ちを予想していたでしょう。ところが,阪口六段が意地を見せたのです。そして,なんと8勝で追いかけていた3人が全員勝ってしまいました。ということで伊藤五段は頭ハネをされて昇級を逃しました。1敗しただけで昇級を逃すのは不運ですが,仕方がありません。かつて藤井竜王にも同じことがありました。来期は順位が上がるので,しっかり昇級に向けて頑張ってほしいです。
 B1組もちょっとしたドラマがありました。92敗でトップの中村太地七段は,勝てば昇級ですが,負けると,83敗で追う佐々木勇気七段と澤田真吾七段の結果次第となります。中村七段の相手は羽生善治九段です。まず2228分に中村七段は投了しました。中村七段の受けに回った手が弱気で,羽生九段が快勝しました。レジェンドが大きな壁となりましたね。この時点で佐々木七段と澤田七段が勝ちそうな感じだったので,中村七段は悔しい頭ハネとなりそうでした。澤田七段の相手は三浦弘行九段で実力者ですが,今期の調子からも,澤田七段が勝てる見込みは十分にありました。佐々木七段は,過去5連敗と苦手にしている屋敷伸之九段が相手で,しかも屋敷九段は降級がかかっているので必死となることが予想されました。まず澤田七段は,三浦九段相手に,少し無理な攻めをして,結局,相手の攻めを呼び込んでしまい必敗の情勢となりました。澤田七段は諦めきれなかったようで,指し続けましたが,2336分に投了となりました。澤田七段は,勝てば昇級だったのですが,無念の敗戦となりました。この時点で,中村七段の昇級が決まり,また佐々木七段も勝ち負けに関係なく昇級が決まったのですが,それを知らない佐々木七段は,屋敷九段の猛攻を受けて,1分将棋のなか,一手間違えれば負けるというギリギリのところで戦っていました。しかしなんとか逃げ切り,ついに2348分に屋敷九段が投了となりました。屋敷九段は,その前に久保利明九段が千田翔太七段に負けていたので降級は免れ,久保九段が無念の降級となりました。結局,B1組は,佐々木勇気七段と中村太地七段が,晴れてA級昇級で八段となりました。プロの誰もが目標とするA級棋士になった二人に,心よりおめでとうと言いたいです。中村(太)新八段は,羽生九段の壁を感じながらも,昇級できた運を活かして,A級で活躍してもらいたいです。藤井竜王のデビュー以来の連勝を29で留めた男として有名な佐々木(勇)新八段ですが,今期はNHK杯でも決勝に進出しているなど,徐々に実力を発揮しており,来期は四強(藤井,渡辺,永瀬拓矢王座,豊島将之九段)に割って入るような大活躍をしそうな予感がします。

 

2023年3月 9日 (木)

読売新聞登場(3月7日朝刊)

 読売新聞の37日の朝刊に登場しました。東京新聞,朝日新聞に続き,最近は新聞づいています。今回は大阪版なので,阪神地区限定かもしれません。読売新聞はとっていないので,今日,紙面が届けられて,内容を確認しました。「フリーランス なぜ保護必要」というタイトルで,例のフリーランス新法案の紹介を軸に,1紙面全体をつかって,法案などの経緯も含め,フリーランス問題についてしっかりと紹介されていました。たいへん良い内容であったと思います。私への取材はフリーランス一般のことでしたが,取材者の問題関心は,主としてギグワーカーのことでした。私は,ギグワーカーだけでなく,もっと広い視点でフリーランスのことを論じたほうがよいという,いつもの立場からお話しました。インタビューには,私以外に,東京大学の水町勇一郎さんと,フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんが登場していました。フリーランス関係では,平田さんと一緒に掲載されることが多いですね。これで何回目でしょうか。
 話は変わり,ビジネスガイドの最新号(932号)の,同誌に連載中の「キーワードからみた労働法」の新作(第189回)では,有期労働契約の「更新限度条項」をテーマにしています。日本通運(川崎)事件の東京高裁判決を素材にしたものです。 第190回では,フリーランスに関係するデジタル労働プラットフォームを取り上げる予定です。

2023年3月 8日 (水)

仲介業のデジタル化

 今朝の日本経済新聞でFinancial Times の米国版のeditor-at-large のジリアン・テット(Gillian Tett)さんのAI,不動産業界に新秩序」という翻訳記事が掲載されていました。不動産仲介事業にはレントシーキング(rent seeking)が広がっているが,AIなどの先端技術が入ることにより,今後はそれが難しくなり,手数料も下がることになるのではないか,ということが書かれています。投資家は,この事業への投資について慎重であるべきかもしれないということです。
 日本でも,不動産仲介事業の手数料が高いという不満の声はネットをみるとかなり広がっているようです。これに対しては,プロの事業者を活用するメリットを説く投稿もあり(たぶん業界関係者からのもの),素人には悩ましいところがありますが,いずれにせよ,こういう不満があることは事実なのであり,先端技術の活用の余地は十分にあり,大きなビジネスチャンスがあることは間違いありません。
 株式市場でもネット証券を中心に手数料を思い切って引き下げると,個人も参加しやすくなるというのと同様,不動産市場の活性化は,限られた土地の有効活用のためにも必要なことで,そこではデジタル化にともなう手数料の引き下げは有力な方法となるように思います。社会課題の解決につながるというところに,このビジネスの大義があります。
 普通の人は,不動産売買にせよ,賃貸借にせよ,仲介事業者を通さなければ,売主と買い主,貸主と借主が個人で交渉をしなければならないことになるので大変そうだと考えているでしょう。私もそうです。しかし,これもうまいデジタルプラットフォーム(digital platform)をつくることができれば,克服できないことではないと思います。あとは,私たち自身が,これはプロに任すのは当然という意識を改めることかもしれません。
 少し状況は違いますが,相続手続は司法書士に任せるというのも常識のようにも思えますが,私は今回の相続は簡単なものであったこともあり,自分ですべてやりました。面倒くさいことでしたが,自分でできることは自分でやって出費をおさえたいという気持ちから,頑張りました。幸いなことに,法務省などのホームページにかなり情報があり,不明な点は電話で確認をしていけば,丁寧に対応してもらえました。さらに,実際の手続ではいろいろとミスをしましたが,これもまた丁寧にサポートしてもらえました。実は相続以外にも,社会保険関係の手続で,書類の不備などのミスをしましたが,これも役所の人が丁寧にサポートしてくれました。しかも,ほとんどすべてムーブレスでやることができたことも助かりました。一つだけ,法定相続情報一覧図については,申請書に印鑑を押し忘れていたので,法務局に行きました。ただ,印鑑を押して補正したあと,その場ですぐに一覧図を受け取ることができました。返信用封筒には,本人受取限定書留の高い切手代を貼っていたのですが,それが不要となり返却してもらえたので,結局,費用の節約となり助かりました。
 インターネットでの情報提供というデジタルな側面と,役所側の人の丁寧な対応というアナログ的な側面とが合わさって一人ででてきたのだという結論になりそうですが,もとはといえば印鑑にこだわるところに問題があったともいえます。戸籍の収集ももっと簡単にできるはずです。こういうところがもっと効率化すれば,役所の人の仕事も減り,国民の負担も減り,こうした手続はオンラインでもっと簡単にできることになるでしょう。それは同時に,司法書士の方に,こんな事務的な細かいことではなく,もっと大きな仕事に専念してもらえることにつながると思います。

2023年3月 7日 (火)

転職力の時代?

 9年前に『君の働き方に未来はあるか?―労働法の限界と,これからの雇用社会』(光文社新書)を上梓ししたとき,当時,よく使われていたエンプロイヤビリティ(employability)に「転職力」という日本語をあてました。そして,これについて「他社から引き抜かれる力であり,他社に引き抜かれることを恐れる現在の企業から,より良い労働条件を引き出す力でもあります」と述べていました(166頁)。
 これからは,納得できない労働条件であれば他社に転職できるような力を身につけることが必要だということを説きたかったのです。「君は会社に辞めてやると言えるか」ということを問いかけたのです。会社べったりの職業人生は危険であるので,いつでも辞められるような準備をし,かつそういう心構えをする必要があるということが大切なのです。そんな強い労働者なんていないか,いてもごく一握りにすぎないというのが,当時の反応でしたが,そのときはそうかもしれないが,いずれ変わるというのが私の考えでした。そんななか,ある報道番組で,若者の間で自分のキャリアを高めるための転職が徐々に増えてきているという話が紹介されていました。転職への心理的ハードルがどんどん下がってきているようです。それと同時に,企業のほうで優秀な人材のリテンションのための賃上げが起きているという話も紹介されていました。いよいよ「転職力の時代」に突入したのかなという思いです。
 ただ,「転職力の時代」となると,勝ち組と負け組がはっきりしていくことにもなります。企業内での正社員の間であれば,差がつくといっても,それほどのものではありません。さらに近年は,正社員と非正社員との間も差がつかないようにしようとされています。しかし,「転職力の時代」は,そういう平等主義的な処遇からは離れることになります。あえて平等という言葉を使うなら,本人の技能の市場価値に対して平等ということでしょう。これは,日本人が過去半世紀以上の間,慣れ親しんできた平等感とまったく違うものです。昭和どっぷり世代の私も,競争社会が良いとは全然思っていません。いまは自分自身は,競争から落伍して,わがペースで走っている感じです。
 しかし,私のようなシニア(入口?)の人間はさておき,これからの若者は競争社会に巻き込まれて行かざるを得ないのです。日本だけが特別な存在でいることはできません。転職力を付けろ,プロになれという,拙著のメッセージは,彼女ら・彼らに向けているのです。
 拙著に対しては,自分には転職力はないが,子どもには転職力もたせないという反応をくださった読者も少なくありませんでした。最近では,あまり聞かなくなったエンプロイヤビリティですが,政府は,これを転職力と言い換えて,雇用政策のキーコンセプトに据えてみてはいかがでしょうか。
 なお,この本もKindle Unlimited に入っています。

2023年3月 6日 (月)

レジオネラ菌問題に思う

 福岡の老舗の温泉で,標準値の3700倍のレジオネラ菌が発見されたという報道が出ていました。3700倍というのが,どれくらいの危険性を意味するのか,よくわかりませんが,年に2回しか湯を変えていないということを知り,ゾッとしました。この温泉が特殊なのか,他の温泉も同じようなものなのか,よくわかりませんが,業界の評判を著しく下げる行為です。私は温泉大好きとはいえ,日本の温泉旅館は高くて,なかなか宿泊することはできませんが,衛生管理が不十分となると,いっそう行く気が失せます。大丸別荘が特殊なことかもしれないので過剰反応するのはどうかという気もしますが,温泉は日本の大事な文化なので,とにかく業界あげて信頼回復に努めてほしいです。
 ところでレジオネラ菌の怖さを知ったのは,以前に紹介したことがある安部二『日本怪死人列伝』(扶桑社文庫)のなかで,元高鉄山の大鳴戸親方とそのタニマチの橋本という方が,同じ日に同じ病院で死亡したという事件(?)で,安部氏が二人の死因をレジオネラ菌によるものと推理していたのを読んだときです。二人は大相撲の八百長の告発をしようとしており,口封じのために何者かに殺害されたという噂があったのです(いまでも,その噂はあります)が,安部氏は,二人が一緒にソープランドに行って,そこでレジオネラ菌に感染したことが原因だと述べています。安部氏の推理が当たっているかどうかはともかく,どうも基礎疾患があれば危ないということは確かなようです。実際,レジオネラ菌の事故は,温泉や公衆浴場などでときどき起きていますし,死亡事故もあるようです。ソープランドに行って感染して死んだというような例では,本人は誰にもそんなところに行っていたとは言わないでしょうから,感染源が不明のままであることも多いかもしれませんね。
 今回の事件は,体調不良になった人が医療機関にかかり,レジオネラ菌が出てきたので,保健所が乗り出してきたのですが,「旅館側は湯の交換頻度や塩素注入は適正だと説明した。さらにこの後,10月の自主検査でも菌は基準値以下だったと県に届け出た」ということのようです(https://www.tokyo-np.co.jp/article/232952)。これは悪質であり,今日のニュースでは,刑事告発がなされる方向のようです(https://news.yahoo.co.jp/articles/dcc568a2ed36ed022bf42930a4a28e54bbf36aa9)。やむを得ないでしょう。
 本来,こういうことは,温泉の従業員の内部告発に期待したいところです。そうなると公益通報者保護法の出番となるのですが,通報対象事実になるかが,すぐにはわかりません。虚偽報告は,温泉法281項違反となって,416号による罰則がかかり,温泉法は公益通報者保護法の別表に記載されている法律に該当するため,通報対象事実となるといえそうですが,これが正しいかはよくわかりません(虚偽報告がどの法律との関係で出てくるのかがネットで検索しても出てこなかったので,自信はありません)。これから通報しようとする行為を入力すれば,通報対象事実かどうかを答えてくれるチャットボットがあれば助かりますね(弁護士への相談は,普通の人には心理的にハードルが高いです)。私のような呼吸器が弱い人間が安心して,温泉につかれるようになるためにも,従業員のみなさんの勇気ある行動が必要です。そのためにも公益通報者保護法が,使い勝手のよいものになってもらう必要があるように思います。このことは,前にも書いたことがですが,温泉の湯の交換頻度など内部告発ががなければ,被害者がでるまでは明らかにならないでしょうから,改めて強調しておきたいと思いました。

(* その後,報道によると,今回のケースは,温泉法違反ではなく,公衆浴場法違反が問題となったようで,同法6条1項に基づく虚偽の報告があったことについての刑事訴追であるようです(同法9条)。なお,公衆浴場法も,公益通報者保護法の通報対象事実に関係する法律に含まれています)。

2023年3月 5日 (日)

朝日新聞デジタルに登場

 朝日新聞デジタルで,先日の東京新聞に続いて,Googleでの労働組合の結成に関係して,取材を受けました。インタビュー記事が掲載されています。紙の媒体には掲載されませんでしたが,その分,長めに載せてもらったという感じです。もっとも,私のコメントは,労組結成に対する直接的なコメントをしたわけではなく(というのは詳しい事情がわかっているわけではないので),あくまで記者の方などからお聞きしたかぎりの情報をベースとした一般的な話をしたものです。前にも書いたように,技術革新が進むなかでは,退職勧奨やさらには解雇といったことは避けられないと考えており,労働者はそれにそなえた覚悟が必要だということです。労働組合を結成して戦うことは大切ですが,政府は,そうした自助の手段があるからといって,それに任せきりにせず,やるべきことがあると思っています。
 ところで今日は,日曜日でしたが,日本司法書士会連合会の研修会があり,そこでで講演をしました。「ニューノーマルな働き方と労働者の権利擁護」という統一テーマのなかで,私は,「私たちの働き方はどう変わるか~仕事の未来と課題~」というテーマの基調講演を割り当てられました。もちろん私は,いつものようにオンライン講演ですし,会自体はハイブリッド型で,オンライン参加の人もいたようです。デジタル改革の影響という全体的な話をしたうえで,とくに主催者側の関心が高かったテレワークと副業をトピックとして取り上げました。その後のパネルディスカッションでは,雇われない働き方についてもトピックに挙げられていたので,それについても,お話をしました。司法書士の皆さんも労働問題に深い関心を寄せていることは少し意外でしたが,事前の打ち合わせの段階から熱心に私の話に耳を傾けてくださり,こちらもそれに応えられるように微力を尽くしたつもりです。
 今年度の講演については,もう一つ3月24日に大きな仕事があります。神戸大学の社会システムイノベーションセンターの法と経済学セミナーで,テーマは「労働プラットフォームを働き方改革に生かせるか」です。デジタルプラットフォームの一つとしてのデジタル労働プラットフォームには,どのような特徴があるのかを多角的に検討してもらい,そこから世界中で問題となっているUber型ビジネスに切り込むための視点を何かつかもうという探索型シンポです。労働法屋は私だけですが(私以外の人のほうがよかったのですが,時期的に難しかったです),法と経済学に造詣が使い研究者に集まってもらっています。Zoomでの開催です。実務に直接に役立つような話が出てくるわけではありませんが,研究者がどんな議論をするのだろうということに関心がある方は,ぜひご参加ください。

2023年3月 4日 (土)

映画「ヒポクラテスたち」

 Prime Videoでやっていたので観ました。一度観たことがあるはずですが,ストーリーはすっかり忘れていたので,観てみました。1980年のATGの映画です。大森一樹監督,古尾谷雅人主演,キャンディーズを解散して「普通の女の子」に戻ったはずの伊藤蘭ちゃんはこの作品で復活です。柄本明,内藤剛志,斎藤洋介らも出演しています。鈴木清順が,こそ泥(病院荒し)役で出ているのは,笑ってしまいました。卒業間近の医学生の青春ストーリーです。医師の倫理を説いたヒポクラテスの誓いは有名ですが,実際の医療業界はそうきれい事を言ってられません。しかし,まだ国家試験に通る前の医師の卵たちには,若者らしい潔癖性や正義感があります。いろいろな悩みを抱えながら,懸命に生きている若者たちが描かれていて,私は医学部生ではありませんが,学生時代の気分に戻った感じがして懐かしかったです。
 主人公の荻野愛作ら医学部の6回生は,臨床実習では白衣を着て,周りからは「先生」扱いです。しかし,知識はあっても,臨床の現場では,いろんな人に接することになり,自分たちが未熟であることがわかってきます。堕胎希望の女子学生と面談したり,ヤクザから血を抜いたり,胃がんである可能性が高い患者の腹部を触診したり,緊急搬送の現場で悲嘆にくれている親族らしき人たちに直面したり,これまで経験していなかったようなことが次々とふりかかってきます。
 寮生活をしている愛作には恋人がいて,ときどき彼女のところに行っていました。そんなとき,愛作は,彼女が妊娠していることを知ります。彼女は町の産婦人科医で堕胎するのですが,その後,体調不良となります。彼女は結局体調が戻らず,故郷に帰ってしまいます。その後,その産婦人科の医師は無免許医で,被害者を多く出していたことを報道により知った愛作は衝撃を受けます。彼は白衣を黒く塗りつぶして仲間の前に現れます。精神がおかしくなってしまったのです。
 古尾谷のピュアな若者の演技は印象的です。その後の彼の自殺は信じられませんが,いろんな苦悩があったのでしょう。よい役者だったのでもったいないです。
 ところでATGの映画は,若いころはよく観ていた記憶があります。江藤潤と竹下景子が出ていた「祭りの準備」も印象的です。江藤潤といえば,「純」という映画も,ありました。故郷の軍艦島から集団就職で都会に出てきた青年が,痴漢という行為にのめり込む映画であり,興奮して観ていた覚えがあります。ATGではないようですが,ATGっぽい映画です。ただ,痴漢行為が出てくるので,いまの時代であればクレームがでるでしょうね。そういえば,「ヒポクラテスたち」では,タバコを吸うシーンがずっと出てきて(蘭ちゃんも喫茶店で一本吸うシーンがありますが,これはアイドルをやめて女優になるという決意を監督が後押ししたのではないかと解釈しています),ちょっとタバコの煙に酔ってしまいそうになり,そこは残念でした。あれだけ喫煙シーンが出てくると,現在なら,クレームがつくことがあるかもしれませんね。あの時代の若者には,タバコを吸わせるシーンが必要だったのでしょうか。他人の健康を守る仕事をしながら,自分たちはストレスなどもあってタバコが手放せないという葛藤を描く必要があったのでしょうかね。

2023年3月 3日 (金)

「将棋界の一番長い日」ではなかった?

 3月2日に行われたA級順位戦の最終局は,トップを走っていた広瀬章人八段と藤井聡太竜王(五冠)がともに勝って72敗となり,プレーオフとなりました。竜王戦での対局の再現です。竜王戦では広瀬八段は敗れたとはいえ,藤井竜王から2勝しており,1発勝負ですので,どうなるかわかりません。他にプレーオフ進出の可能性があった豊島将之九段と永瀬拓矢王座はともに勝ちましたが,届きませんでした。来期の順位は3位以下は,豊島九段,永瀬王座,齋藤慎太郎八段,菅井竜也八段,稲葉陽八段,佐藤天彦八段の順となり,その下にB1組から上がってくる2人が入ってきます。
 これで藤井竜王は,来週は,渡辺明棋王(名人)との棋王戦(3月5日),羽生善治九段との王将戦(3月11日~12日)というタイトル戦と並んで,名人への挑戦をかけてのプレーオフ(3月8日)という怒濤の1週間となります。おそらくその間にNHK杯の準決勝・決勝も収録がされているはずです(もう終わっているかもしれません)。
 それにしても昨日の藤井竜王は強かったです。稲葉八段相手に19時台に勝負を決めてしまいました。圧勝でした。この日は一斉対局で,「将棋界の一番長い日」と呼ばれているのですが,それは最終局であることから,名人挑戦者が決まると同時に,最高峰のクラスからの降級者も決まるということで,熱戦が繰り広げられ,日をまたぐことも多かったからです。いろいろなドラマもあるのですが,今期は降級者がすでに決まっているため,名人挑戦者が決まる可能性があるということだけが注目でした。稲葉八段は名人挑戦も降級も関係しない気楽な立場であったのですが,見所をつくれなかったのは残念です。それだけ藤井竜王の力が頭抜けているのでしょう。昨日敗れた齋藤慎太郎八段,菅井竜也八段,それに降級が決まっていて,昨日も敗れた糸谷哲郎八段と並んで,関西の中堅棋士には,もう少し頑張ってもらいたいです。
 今日は谷川浩司十七世名人が,関西の若手の徳田拳士四段相手に93手で勝ちました。踏み込みのよい寄せ(光速とまでは言えないかもしれませんが)で快勝です。順位戦(B級2組)の最終局は,すでに昇級を決めている大橋貴洸七段が相手であり,おおかたの予想は大橋勝ちでしょうが,なんとしても勝って少しでも順位を上げて今期の順位戦を終えてもらいたいです。

2023年3月 2日 (木)

共産党の除名騒動に思う

  共産党が,書籍のなかで党首公選制を提案した党員(ジャーナリスト)を除名したことが話題になっています。志位和夫委員長の「長期政権」の是非に問題提起をしたものといえそうですが,執行部は厳しい対応をしたようです。共産党の対応を批判した朝日新聞の社説に猛反発した志位委員長の会見をテレビで観ましたが,産経新聞と朝日新聞と言い間違えたことなども含め,感情的な反発をしている印象を与え,なんとなく余裕のないように感じたのは私だけではないでしょう。志井体制が盤石であれば,今回の一党員の意見など聞き流すことができたのでしょうが,除名という厳しい対応をしたところに,共産党の弱体化が現れているのかもしれません。連合の会長から露骨に嫌われたり,幹部のパワハラが問題となったりと,共産党にとって面白くない話題が多かったなかでの,今回の騒動です。
 党首公選制は民主的な党首の選出方法といえるでしょうが,それがベストだとは限りません。志位委員長は,直接選挙は,党首に権限が集中するので民主的ではないとする趣旨の発言をしたようです。民主的であることは必要ですが,直接選挙はそれとは違うということのようです。
 共産党は,「党内に派閥・分派はつくらない」ことを綱領に定めています。直接選挙にすると,多数派をめざした競い合いがあり,派閥や分派ができてしまい,党の統一と団結が損なわれてしまうことをおそれているのです。共産党のような主義主張が明確な党は,一枚岩であることが大切であり,直接民主制的な党首選挙は合わないような気もします。そもそも,党の方針として,こういうことを定めるのは自由だと思います。党首の選び方も,各党が自由に決められることです。さらに,どのような人を除名するかのルールも,党が自由に決められるものです。
 一方で,共産党も政党として議席をもつ公けの存在である以上,メディアが批判的な意見を書くこともまた自由です(国家権力が政党を弾圧するのとは違います)。朝日新聞の批判を,結社の自由への加入という趣旨のことも志井委員長は言っていましたが,これは筋違いでしょう。共産党は不快であっても,朝日の批判は受け流すべきだったのだと思います。
 ところで,団結を重視して,自由を制限するのは,労働組合において,ユニオン・ショップを適法とする議論とどことなく似たものを感じます。団結それ自体に優先的な価値を認めると,個人の団結の自由は制限されても仕方がないということになります。私は,この考えに反対で,オープンショップにして労働者・組合員の自由を尊重してこそ,団結は強化されるのであり,逆に組合員の自由を制限した団結は衰退していくであろうと考えてきました。そのアナロジーでいくと,政党も,意見の自由を尊重してこそ,団結は強化されるのではないかと思います。今回のことは,共産党を弱体化させることにつながらないでしょうか。お節介なことかもしれませんが,共産党が一定の存在感をもつことが,日本の政治において必要と考える立場からは,心配となるのです。
 いずれにせよ,今回の騒動は,団体と個人の関係を考えるうえでの一つの材料を提供するものであり,大学のゼミで論じるのに適切なテーマだと思います。

2023年3月 1日 (水)

東京新聞に登場

 3月に入りました。今日は4月のような陽気で,外出するのにコートは不要でした。
 2月は28日までしかないので,あっという間に終わる感じですね。なんで28日までしかないのかは歴史的な経緯があるのですが,もともとは,奇数月は31日,偶数月は30日でした。これだと366日となるので,たとえば奇数月を一つでも30日にしていれば,2月を28日にしなくてもすんだのです。8月が31日になったので,おかしくなったのです。Augustusが悪いのです。そもそも7月以降が,9月以降にずれこんだのは,8月にAugustusが割り込み,その前に7月にCaesarが入り込んでからです。イタリア語でいえば,7sette)から来ているsettembre(英語のSeptember)が9月に,8otto)から来ているottobre(英語のOctober)が10月に,9nove)から来ているnovembre(英語のNovember)が11月に,10dieci)から来ているdicembre(英語のDecember)が12月になってしまっています。ローマの皇帝に左右されてしまっている暦ですが,とにかく2月が28日までというのは,月の感覚が狂ってしまいいやなものです。
 ところで話は変わり,今朝の東京新聞に,私のコメントが掲載されています。前日の15時くらいに大学の総務に取材依頼があって,それが転送されてきました。私はこの日は大学本部の用務中でしたが,予定よりその日は早く業務が終了したので,電話で取材に応じることにしました。Googleの解雇を採り上げるということで,私には解雇一般のことについて質問があったので,お答えしました。いつものように,記事にはそのごく一部が圧縮して掲載されていて,なんだか全体の筋の中ではピンボケのようなコメントになっていますが,こういうことは新聞コメントの場合はよくあるので,あまり気にしないことにしています。驚いたのは,私と並んで登場していたのが,脇田滋先生だったことです。脇田先生と私は学説上の立場はかなり異なりますが,もし今回,私に労働組合の結成についてどう考えるかというような質問があれば,脇田先生と同じようなことを話していたでしょう(ちなみに脇田先生と私はイタリア労働法の研究という点では共通項があり,昔はイタリアの話題でお話しさせてもらったこともあります)。
 私はデジタル化が進むと深刻な解雇問題は不可避となると考えています。今回の巨大IT企業については,必ずしもデジタル化のインパクトということではないのかもしれませんが,ただ急速な技術革新は,一部の産業や職種において,大量の労働需要を生むものの,さらなる急速な技術革新で,成長産業から衰退産業に転落することがありえて,その影響で大量の雇用調整が起こることは十分に想定できました。Googleが衰退産業にあるとは言いませんが,Googleといえども,技術革新の競争の波に飲み込まれていることは間違いないのであり,そのようななかで,どうしてもこういう大量解雇ということは起きてしまうのです。こうしたことは,解雇規制ではどうしようもないところもあるので,雇用不安定時代を念頭に置いた政策的対応が必要というのが,私がずっと主張してきたことです。解雇規制はあっても(外資系企業でも同じように適用されます),それだけでは安心できないのであり,ここは政府がほんとうの意味での労働市場の流動化に対応した政策をとる必要があるのです。最も重要なのは,月並みとはいえ,スキルの習得のサポートであり,流行の言葉でいえば,リスキリング政策となります。

« 2023年2月 | トップページ | 2023年4月 »