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2023年2月27日 (月)

フリーランス新法案

 先週,フリーランス新法が閣議決定されたという記事が出ていました。昨年11月くらいに新法成立かと思われていたのですが,11月は閣僚の辞職が相次ぐなど,それどころではなかったようですね。ようやく閣議決定がなされましたが,これから国会での審議がスムーズにいくか予断を許しません。
 ところで法案では,フリーランスという概念は使われず,「特定受託事業者」となっています。労働者性はなく,事業者のなかの一類型ということでしょう。
 新法の概要をみると,その趣旨について,次のように書かれています。
 「我が国における働き方の多様化の進展に鑑み,個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため,特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的として,特定受託事業者に業務委託をする事業者について,特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずる。」  
 法案は,取引の適正化は公正取引委員会・中小企業庁,就業環境の整備は厚生労働省ということで,役割分担をしています。これは行政サービスのワンストップ化とは逆行するもので,フリーランス側のことを考えていないようにみえますね。フリーランスが,労働者と事業者の両方の性質をもつことから,それぞれに関係する役所が「出張」してきて,分け合って担当しましょうという感じです。もう少し「野心的な」(?)法律が必要なのですが,これは研究者のほうでもまだ十分な検討ができていないので,役人に期待するのは難しいのかもしれません。
 もちろん,この新法は,昨今話題となっている,デジタルプラットフォーム就労者の労働者性などには関係ありません。フリーランスが事業者であることを前提に,これまで下請法の適用範囲が限定的であったことから,それを実質的には拡張しようとしたものであり,同時に,労働者に適用されているもののうち,募集情報の表示の適正化とハラスメント対応措置,そして継続的な業務委託関係にある場合における育児介護との両立への配慮と中途解除の場合の予告期間などを特定委託事業者にも及ぼそうとした法律です。後者の面では労働法の適用の拡大という意味があり,前者の面では,潜在的には独禁法の適用対象であったが,下請法ではカバーできていなかった取引関係も対象とするという意味で,実質的には適用(実務)の拡大という意味があります。もっとも就業環境の整備の部分は,雇用類似の労働者というカテゴリーの人たちにとっては,物足りないと思うでしょうから,彼ら・彼女らは,自分たちがフルスペックの労働法が適用される労働者であるとして訴訟を起こしたり,団交拒否問題を労働委員会に持ち込んだりすることは,新法制定後もなくなりはしないでしょう(それが激増するとは思えませんが)。
 いずれにせよ,新法は,フリーランスについて関心をもって研究をしてきた私のような立場からは,世間にフリーランスという働き方が認知されるきっかけとなるという点では前向きにとらえられます。新法が薄味の内容であったことは,私たちの法制度構築に向けた研究を邪魔するものではなさそうなので,むしろ幸いなことだと言うべきなのでしょうね。

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