棋士のマスク問題
かつての羽生(ハブ)キラーで「マングース」と呼ばれた日浦市郎八段が「鼻だしマスク」で反則負けとなりました。順位戦(C級1組)なので,大きな棋戦でしたが,本人は確信犯だったようです。ただルール違反として警告を受けていたにもかかわらず,従わなかったということで,ルールの執行上はとくに問題はないとみられるものでした。この点で,佐藤天彦九段がA級順位戦で,永瀬拓矢王座との対局で,警告なしの一発レッドカードを受けたのとは違うところです。日浦八段は裁判をすると言っているという報道もありましたが,もしそうなると裁判所はどう扱うのでしょうか。
裁判所法3条1項は,「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し,その他法律において特に定める権限を有する。」と定めていますが,判例上,「部分社会の法理」というものがあり,たとえば政党の党員の除名処分の有効性について,最高裁は,「政党の結社としての自主性にかんがみると,政党の内部的自律権に属する行為は,法律に特別の定めのない限り尊重すべきであるから,政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については,原則として自律的な解決に委ねるのを相当とし,したがって,政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,裁判所の審判権は及ばないというべきであり,他方,右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても,右処分の当否は,当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし,右規範を有しないときは条理に基づき,適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり,その審理も右の点に限られる」と述べています(最高裁判所第3小法廷判決1988年12月20日)。最近では,地方議会議員の出席停止処分について,部分社会の法理を適用して司法審査を否定していた従来の判例を変更して,司法審査の対象とするとした判決も出ています(最高裁判所大法廷2020年11月25日判決)。除名処分のような場合はさておき,対局のルール違反についてのペナルティについては,「法律上の争訟」と認められない可能性もありますね。
さて,佐藤天彦九段のほうは連盟に対して不服申立てをしているようですが,その結果がどうなったかはよくわかりません。昨日は,A級順位戦で佐藤康光九段との激戦を制し,2勝5敗となりA級残留に可能性を残しました(昨日,敗れて1勝6敗となった糸谷哲郎八段との間の残留争いになりそうです)。一方,敗れた康光九段のほうは,0勝7敗でB級1組に降格が決まりました。おじさん世代の最後の砦でしたが,A級に残留することは,やはり難しかったですね。
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