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2023年1月29日 (日)

島田先生古稀記念論集

 島田陽一先生の古稀記念論集『働く社会の変容と生活保障の法』(旬報社)に拙稿を寄稿しました。普通の古稀記念論集とは違い,執筆テーマが与えられていました。私の場合は,「雇用社会の新たな展望と労働法」というテーマでしたが,「変化する労働と法の役割ーデジタル技術の影響と社会課題の解決という視座」というタイトルにしました。内容は,労働とは,共同体において生じる社会課題の解決のための営みであるという認識を基礎に,その内容が時代とともに変遷し,とくに19世紀以降の産業資本主義社会の時代には,企業が社会課題の解決をにない,労働者はそのために単に労働力を提供するだけの存在になってしまい,しかも企業のほうは社会課題の解決というミッションを忘れがちで,逆に社会課題をつくりだすほうに回ってしまった感があったなか,デジタル技術の発展のなかで,個人が企業を介さずに直接,社会課題の解決に貢献できるようになってきたというのが基本的なストーリーです。もともとは,拙著『デジタル変革後の「労働」と「法」』(2020年,日本法令)のなかでも,同じようなことを書いていますが,とくに労働の意義ということにフォーカスをあてて,そのエッセンスをまとめたのが今回の論文です。この原稿を提出したのは昨年の4月初旬(ほぼ締切期日どおり)で,その後,同様のことを書いたり,言ったりしているので,新鮮味はないかもしれませんが,論文としては最初に書いていたものでした(もう少し早く刊行されると思っていました)。
 拙稿についてはともかく,この本の執筆にこれだけ多くの人が参加していることからも,島田先生の偉大さや人望の大きさがよくわかります。早稲田大学という名門を率いて,労働法学会でも重鎮であるにもかかわらず,フランクなお人柄で,一昨年も先生が司会をされる学会のワークショップに声をかけてくださるなどのお付き合いがありました。今回の記念論集では,こうした企画には珍しく,ご自身も「生活保障法の理論課題」という先生の年来の主張を総括した論文を掲載されており,それだけでも,この本が単なる古稀記念論集とは違うことがわかります。
 昨年はお弟子さんの林健太郎さんの『所得保障法制成立史論―イギリスにおける「生活保障システム」の形成と法の役割』(信山社)をじっくり読む機会がありました。荒削りなところもありますが,大きな可能性を感じる大作であり,立派な後進の育成をされておられるなと思っていました。私自身,労働法と社会保障法の専門分化が進むなか,実はこれを統合する議論をすべきであり,とくにそれはフリーランス問題が出てくるなかで痛感しているところです。被用者保険が中心にある社会保険を見直さないかぎり,社会保障の未来は厳しいと考えているのですが,これも先生の生活保障という大きな枠でみれば,新たな発想が生まれてきそうです。
 島田先生はこの3月で定年を迎えられるそうですが,研究者としてはまだまだ現役で活躍されるでしょう。引き続き,ご指導をたまわればと願っています。

 

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