野田進『フランス労働法概説』
野田進先生から,『フランス労働法概説』(信山社)をいただきました。いつも,どうもありがとうございます。前に『規範の逆転―フランス労働法改革と日本』(日本評論社)もいただいておきながら,しっかり読んだうえで紹介しなければと思いつつ,果たせないままになっていました。申し訳ありませんでした。本書においても「規範の逆転」のことが書かれています(労働法規の中心的地位が後退して,労働協約規制がない場合の補充規範になっているということを,規範の逆転と呼んでいます)。規範の逆転は,私の考える労働法体系とフィットするものなので,いずれしっかり野田先生の本でフランス法の勉強をしたうえで,きちんと咀嚼して分析しなければならないと思っています。
ところで,今回の『フランス労働法概説』は,文字どおり,待望の1冊です。誰がフランス労働法の本格的な概説書を書くのかということは気になっていました。何人か候補はいたのですが,やはり野田先生でしたね。フランス労働法は,比較法の対象国として重視される割には,その情報にアクセスするのが大変でした。フランス労働法を調べるためには,どうしても自分で原文にあたって勉強せざるを得ず,ドイツ労働法と違って情報を得るのが著しく大変です。そして,自分で調べると言っても,語学的にはわかったとしても,体系的に捉えていなければ,誤った理解をしてしまうことにもなるので,困っていました。どうしようもないのかなと半ば諦めていたのですが,フランス労働法の重要性に鑑みると,これは大きな問題でした。それがようやく解決されました。
今回の野田先生の本は,フランス労働法の全体像がわかるだけでなく,日本人が日本人のために書いたというところに大きな意味があります。外国法の概説書は,翻訳ではダメなのです。私自身,レベルは違いますが,イタリア労働法の概説書を書いたことがありますが,まずイタリア労働法を正確に理解することは当然として,それをそのまま日本語にしても,日本人にうまく伝わりません。そこをどう日本人向けに説明し直すか。ここが一番の難しいところです。
しかし本書は,さらにその上を行っています。なんといっても文章としても読みやすいし,味わいがあります。一例を挙げると,「労働争議のフランス的特性」というところがあります(433頁)。フランスに行くと,ストライキは社会で重要な意味をもっていることがわかります。イタリアも同じですが,フランスのストライキは,かつての日本のストライキとは違い,個人的な性格が強いものです。そういうことを,わかりやすく説明してくれたあとに,法的な説明に入っているので,あまり団体法に関心のない人でもとっつきやすいでしょう。
本書により,フランス労働法がぐっと身近になりました。日本の労働法学への貢献度は計り知れないものがあります。ただ,どうしても外国法は,時間が経つと古くなります。フランス労働法も,「規範の逆転」のように,近年に大きな変化があったようです。今後,デジタル化のいっそう大きな影響がフランスにも及び,労働法も大きく変わっていくでしょう。野田先生の偉大な業績が,次の世代にも継承され,アクチュアルなフランス労働法の情報に接し続けることができることを楽しみにしています。もちろん,当分の間は,野田先生ご自身がアップデートされていくでしょうが。
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