円滑化協定
岸田首相は,今回の外遊中,イギリスとの間で,「円滑化協定」を締結しました。「円滑化」とはなんぞやと思い,調べてみると,これは「facilitation」の訳でした。何を「facilitation」するのかというと,この協定の略称は,「日英部隊間協力円滑化協定」であることからわかるように,「部隊間の協力」の円滑化です。「部隊」とは何かというと,これはこの協定の正式名称をみればわかります。正式名称は,「日本国の自衛隊とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の軍隊との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間の協定」です。実質的には,軍事協定ということです(自衛隊を軍隊と呼ぶかは議論がありますが,他国からは軍隊とみられているでしょう)。同様の協定は,すでにオーストラリアとの間でも結ばれています。この協定はRAAと略称されることもありますが,それは「Reciprocal Access Agreement」の略称であり,「相互アクセス協定」という訳になるでしょう。「日英軍事相互アクセス協定」くらいの呼び方をすべきで,「円滑化協定」という「無色」な略称を使うのは,何らかの政治的意図を感じてしまいます。
ウクライナ戦争や中国・台湾問題などから,日本の安全保障をめぐる状況は大きく変わりつつあるということですが,岸田政権の軍備増強への前のめりの姿勢には不安がないわけではありません。平和ボケと言われるかもしれませんが,日本がG7の一員でいることの意義は,アジアの国であることにあるのであり,西洋的な価値観にすり寄り,それに迎合するだけでは日本の存在意義はありません。たんにアメリカの対中国戦略の駒になりさがるだけです。日本の置かれている地政学上の位置を十分に踏まえ,日本ならではの戦略を提示していくべきだと思います。それは直ちに中国融和策や親中政策をとるべきということではないのですが,軍拡競争に乗ってしまうのには,どうしても抵抗があるのです。タモリの「新しい戦前」発言が話題になっています。彼の真意はよくわかりませんが,感覚的にはよくわかります。だから具体的にどうすべきかは,私もよくわからないのですが,ただ岸田政権が,どこまで深く考えて軍拡路線に走っているのかが,これまで他の分野で地に足のついた政策を展開してこなかっただけに気がかりなのです。安全保障問題を正面にかかげて総選挙をしたほうがよいかもしれませんね。
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