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2022年12月 4日 (日)

韓国の物流ストに思う

 11月29日の日本経済新聞の電子版で,韓国の物流ストに対して,韓国政府が,運送業者に業務開始命令を出したという記事が出ていました。それによると,貨物事業者の法令をもとにストライキをしている者に現場復帰を求め,もしストを継続すれば免許停止や罰金を科す構えのようです。運送業者は個人事業者のようです。個人事業者のストライキが,韓国の法制上,どのように考えられているのかわかりません。
 日本では,労働者の場合には,争議行為に対して,労働関係調整法上の公益事業(8条)についての一定の制限があることに加え,緊急調整の決定にともなう50日間の争議禁止という(すごい)規定があります(38条)。このほか,電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律(スト規制法)というものもあります。「公衆の日常生活に欠くことのできない」エッセンシャル・サービスは,憲法28条で保障されている団体行動権の中核にある争議権ですらも,一定の制限を受けざるを得ないということです。日本の場合,運輸事業は公益事業に含まれているので(労働関係調整法811号),もし同じような物流ストを労働者が行えば,労働委員会が職権で調停をすることができますし,さらに政府が乗り出すとすれば,上記の緊急調整がありえることになります。ただ緊急調整は,「内閣総理大臣は,事件が公益事業に関するものであるため,又はその規模が大きいため若しくは特別の性質の事業に関するものであるために,争議行為により当該業務が停止されるときは国民経済の運行を著しく阻害し,又は国民の日常生活を著しく危くする虞があると認める事件について,その虞が現実に存するときに限り,緊急調整の決定をすることができる。」(35条の21項)と定められていて,かなり要件は厳格です。争議調整は,中央労働委員会で行われます(35条の3)。緊急調整がなされている間は,労務に従事しなければ(争議行為を継続すれば)罰則が適用されます(401項)。つまり,国民経済の運行を著しく阻害したり,国民の日常生活を著しく危くしたりするような場合であれば,この緊急調整・争議行為の50日間の禁止という規定の発動の問題となるのです。
 緊急調整の決定は,195212月に一度,発動されています。当時は,賃上げを求める電産スト,炭労ストが国民生活に脅威を与えていました。その後,1953年に上記のスト規制法が制定され,当初は3年の時限立法でしたが,その後,恒久法になっています。2014年の電力自由化の際に,スト規制法が再び話題となり,厚生労働省の部会で検討されました。労働組合側はスト規制法の廃止を要求しましたが,通りませんでした。たしかに労働関係調整法上も公益事業に関する規制があり,電気事業は公益事業と明記されているので,同法の規制で十分という組合側の考えもわからないではありません。スト規制法は,憲法28条との緊張関係があることも考慮されるべきでしょう。
 ところで,日本ではあまり想像できませんが,たとえばコロナ禍で,エッセンシャル・ワークにおいて,待遇改善を求めてストライキをするような組合が出てくればどうなるでしょうか。エッセンシャルだからこそ待遇を改善してよいということにもなりそうです。ところが,彼ら・彼女らはギグワーカーで労働者ではないから,労働組合が結成できないとなればどうでしょうか。こうなると,この前の都労委のUber Japan1社事件の命令の話にもつながってきます。労働者性を肯定すると,ギグワーカーもストライキができることになります。ところがエッセンシャルな業務ということを重視すると,理論的には,前述のように,内閣総理大臣が,労働関係調整法82項に基づき公益事業としての指定をし,緊急調整を決定して,争議行為を禁止するということもありえないわけではありません。フリーランス新法がどうなるかわかりませんが,新法では扱わないであろう団体法の領域に入ってくると,難しい問題がいっぱい出てきます。
 なお,イタリアでは,エッセンシャルな公共サービス(servizi pubblici essenziali)な部門でのストライキについての規制がなされており(イタリアは憲法により明文でストライキ権が保障されていますが,他の憲法上の権利との調整から一定程度の制限はありうると解されています),そのなかで,憲法上の人格権に対する重大かつ切迫した損害が発生する(根拠ある)危険性があるときには,専門の委員会が,徴用(precettazione)を命じることができるとしています(イタリア法における徴用については,拙著『イタリアの労働と法―伝統と改革のハーモニー』(2003年,日本労働研究機構)220頁以下)で概要を紹介していますので,関心のあるかたは参照してください)。この命令の対象には,独立労働者(自営業者)のストライキも含まれています。独立労働者のストライキが憲法上保障されているかどうかは議論がありますが,少なくともスト規制法での徴用の対象を考えるうえでは,エッセンシャルな公共サービスの提供が従属労働か独立労働(自営)のどちらであるかは関係なく,サービスが停止すること自体が問題だとされているのです。
 ここには労務の集団的放棄をめぐるきわめて難解な理論問題が横たわっており,研究を深めるのに足りる重要テーマ(まさに労働法の香りが強いテーマ)だと思います。若手研究者の取組みに期待したいです。

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