専門業務型裁量労働制はどうあるべきか
前に専門業務型の裁量労働制の本人同意のことを書いたところですが,今度は専門業務型裁量労働制にM&A業務も追加するということが報道されていました。厚生労働省のHPをみると,労政審の労働条件分科会は12月には毎週開催されていたようですね。年末までご苦労様です。委員の方も役人も大変ですね。
裁量労働制は,企画業務型と専門業務型が徐々に内容的に接近してきているようであり,それなら両者を統合することも考えてよいかもしれませんね。専門業務型こそ裁量労働制にふさわしいという見方もできますが,専門業務型の業務に従事しているということと,実際に働いている人が,どこまで裁量労働制にふさわしい働き方をしているかは別の問題であり,だからこそ同意義務といった議論が出てきているのでしょう。ただ,そうなると企画業務型との違いが,だんだんはっきりしなくなり,両制度間の導入手続の違いをどう考えるかという話が出てきます。それとは別に,私のいつもの議論でいうと,そもそもプロ人材には労働時間規制は不要で,健康確保措置を別途に切り出し,それについてはデジタル技術を活用した自己管理をすべきということになります。
ところで,私自身には専門業務型裁量労働制が適用されていますが,教育の面では裁量労働ではありません。告示により,「学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)」は専門業務型裁量労働制の対象に含められていますが,そこでいう「主として研究に従事するもの」は,通達により,「業務の中心はあくまで研究の業務であることをいうものであり,具体的には,研究の業務のほかに講義等の授業の業務に従事する場合に,その時間が,多くとも,1週の所定労働時間又は法定労働時間のうち短いものについて,そのおおむね5割に満たない程度であることをいうものであること」とされています(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html)。この「5割」という基準は何を根拠とするのかよくわかりませんが,いずれにせよ教育業務は裁量労働制に適さないものであることを前提としたものといえるでしょう。しかし研究と教育(授業)とを分けるのは現実的ではありません。大学というのは研究成果を学生たちに伝達する場であるはずなので,授業の準備作業には研究的性格も入っているのです。それで何が言いたいかというと,私の場合でいうと,裁量労働制の適用に不満はなく,裁量労働制を適用してもらってよいと納得しているところがポイントで,それは研究業務が5割以上だからとかということとは関係がないのです。現行法を維持するとしても,裁量労働制の適用は,本人の納得同意こそが中核に据えられるべきで,それ以上の規制はどこまで必要かを精査しながら,制度を見直していくことが必要ではないかと思っています。そして最終的には,上述のように,プロ人材には健康自己管理を,という発想でいくべきなのです。
« 瀬古の偉大さ | トップページ | 荒木尚志『労働法(第5版)』 »
「労働法」カテゴリの記事
- フリーランス新法案(2023.02.27)
- 同一労働同一賃金では格差はなくならなかった?(2023.02.06)
- 専門業務型裁量労働制はどうあるべきか(2022.12.29)
- 専門業務型裁量労働制の同意義務 (2022.12.25)
- ナッジから意思理論へ(2022.12.10)