トキソプラズマとリスク選好
妊婦が感染すると子どもに悪影響を及ぼすかもしれないとして警戒されるトキソプラズマですが,これが妊婦・胎児だけでなく,人間の行動に大きな影響があるかもしれないという記事をみて,ハッとすることがありました。
12月4日の日本経済新聞の「サイエンス」欄で,「オオカミを操る寄生体 群れのボス指名,野心あおる」という記事で,この寄生体が「脳を乱して攻撃性を高め,野心をかきたてる。こうした気質がリーダーへと導いていく」とし,「恐れを知らぬリーダーが誕生すると仲間も大胆になる。大きなリスクをとる行動は繁殖や勢力拡大で時に幸運をもたらすが,同時に慎重な気質によって救われてきた命を危険にさらす」とされています。このトキソプラズマは,「既に人類の3分の1以上に寄生しているとの情報もある」とされています。そして,「トキソプラズマの感染率が高い国にサッカーの強豪国が多い」という意味深なコメントが付されていました。
ところで,本日の日本経済新聞の「Deep Insight」では,あの世間を騒がせているFTXトレーディングを率いたサム・バンクマン・フリード(Sam Bankman-Fried)のことが紹介されていました。経済学者が「51%の確率で地球を2つ手に入れるが,49%の確率で全て失う」という賭けの話を提案したとき,普通の人は怖くて乗れたものではないのに,彼は「すごい価値がありそう(な賭け)だ」と答えたというのです。
もちろん彼がトキソプラズマの影響を受けているかは,よくわかりません。ただ一般論として,世の中には過度のリスクをとろうとする人がいて,それが大成功をもたらすこともあれば,周りの者におそろしい危険をまきちらすこともあります。ひょっとすると,それが寄生虫の仕業であるかもしれないとすると……。恐ろしい話ですが,人間と寄生虫との共生の奥深さを感じさせる話でもあります。いずれにせよ,リスクをおそれない性格が遺伝的なものではなく,実はその地域の特性(寄生虫がいるかどうか)に左右されていることであるとすれば,移民などで住むところが変われば子孫も性格が変わることになりそうですね。