「ウォーデン 消えた死刑囚」
昨日に続いて,もう一本,映画を紹介します。今度はイラン映画です。「ウォーデン 消えた死刑囚」という邦語タイトルです(ペルシャ語の原語が読めないのですが,alphabetでは Wardenとなっています。Redskin という意味だそうで,これはタイトルにある消えた死刑囚のあだ名です)。以下,ネタバレあり。
空港建設のため移設が決まった刑務所。刑務所の所長は,無事,新刑務所への移転ができれば,出世が約束されていました。ところが,囚人を無事移転させたと思ったところ,一人足りないことが発覚しました。死刑囚アフマドです。所長は刑務所内にいることは確実であるとして,必死に探しますが見つかりません。この死刑囚を担当していた社会福祉士の女性カリミ(これが超美人)にも協力を求めて,何とか見つけ出そうとします。所長は,カリミに恋心をもっていましたが,カリミは,実はアフマドをなんとか脱走させたいと思い,所長の周りにいました。カリミがそう思うのは,アフマドが無実である可能性がきわめて高いからです。所長も徐々に無実ではないかと疑い始めます。死刑囚の家族からの嘆願,アフマドの蛙を大事にする心優しさ,死刑囚に不利な証言をした証人が実は偽証していたことの告白などがあったからです。とはいえ,アフマドが見つからなければ,どうしようもありません。建物を閉鎖してガスを充満させますが成功しません。アフマドは靴墨を顔に塗って隠れていたのですが,この映画ではシルエットは一瞬出てきますが,最後まで顔は明らかになりません。
刑務所の解体が始まったとき,所長は絞首台の設計図をみて気づきました。絞首台のなかに隠れ場所があったのです。ちょうど絞首台は,刑務所からトラックで外に運び出されていました。所長は,新しい刑務所には,新しい絞首台の製作を囚人に依頼していました。古い絞首台は不要となったから廃棄されようとしていたのでしょう。
所長はアフマドの家族と一緒に,絞首台を乗せたトラックを追いかけます。そして追いついてトラックを止めて,絞首台の基礎部分の扉を開きます。彼は何かを確認したようで(アフマドがいるのに気づいたのでしょう),そのままトラックを行かせます。この最後のシーンで,実はアフマドは登場することになります。なぜかというと,そのシーンは,アフマドの視線でみた情景が描かれているからです。所長の顔を確認し,その後,家族(妻と娘)の顔を確認します。車が立ち去るなか,所長が彼を捕まえなかった安堵感に包まれて映画は終わります。
所長の任務に忠実であろうとすること,しかも自身の昇進がかかっていることがある一方で,無実の者を絞首刑にすることへのためらい,カリミへの恋心などが交錯する人間ドラマです。とくに劇的な展開があるわけではありませんが,落ち着いた感じの良い映画だと思いました。
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