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2022年11月 8日 (火)

官僚のお仕事

 先週まで日本経済新聞で連載されていた「ニッポンの統治」の最終回(第5回)では,「「官邸1強」の後(5)政策立案で省庁「困惑と空白」 縄張り返上,押しつけ合い」というタイトルの記事が出ていました。役所というと縄張りの奪い合いをするイメージがあるのですが,どうもそうではなくなってきているということです。官邸がちょっとした思いつき程度の政策を出して,それを所管官庁に,なんとか法律にまとめてこいと言うようなことが,どうも増えているのではないか,という懸念があります。実は,フリーランス新法も,その類いではないかと心配しています。
 昨年3月のフリーランスガイドラインも,厚生労働省と公正取引委員会とが,双方の立場を何も調整せずにミックスしただけという,私の目からは,あまりにもわかりやすい「手抜き工事」がなされていました。法の適用範囲を明確にしたという程度のもので,関係者のなかでは,よくできたと思っているのかもしれませんが,私からすると,広報リーフレットに毛の生えた程度のものです。
 厚生労働省は,これまでの検討過程からは,雇用類似のフリーランスにまでしか関心がないように思われますし,公正取引委員会のほうは,下請法では適用範囲が狭いと言われたので,そこを拡張しようということなのでしょう(ただ,すなおに下請法の改正という形をとらなかった理由はよくわかりません)。フリーランス新法は,21世紀型社会の新たな労働法・社会保障法を志向するものでなければならないのです。縄張りの押し付け合いの中で,いいかげんな法律を誕生させるというようなことになれば,とても残念ですし,国民は迷惑です。最低限のやってる感を出すことができれば,官邸周辺は喜ぶのでしょうが,誰の目を意識して法律をつくるのかが大切です。
 冒頭の記事で問題なのは,忙しすぎる官僚が,期限を切られるなか,丁寧な仕事ができなくなっていることにあります。フリーランス新法についても,じっくりと関係官庁間で関心と知見のある官僚をあつめて勉強会をし,比較法もしっかりやり,そのうえで独自の法制度を構築していくということをやってもらわなければなりません。比較法に関しては,最近,石田信平・竹内(奥野)寿・橋本陽子・水町勇一郎『デジタルプラットフォームと労働法―労働者概念の生成と展開』(東京大学出版会)という,労働者概念にフォーカスをあてた研究をまとめています(お送りいただき,ありがとうございました)。若い官僚たちには,こういう文献も参考にしながら,ある程度じっくり時間をかけて,彼ら,彼女らがぜひやりがいの感じられるような仕事をしてくれればと願っています。

 

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