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2022年10月24日 (月)

大器キャリアキャスティングほか1社事件

 今日は大学院の授業で,大器キャリアキャスティングほか1社事件(大阪地判20211028日)を扱いました。給油所施設のセルフサービスステーションの複数店舗で勤務していた労働者が,当該業務の発注企業A社(東洋石油販売)からの委託を受けたB社(大器)から再委託を受けたC社との労働契約だけでなく,空いているシフトにおいてA社との間でも直接労働契約を結ぶ二重契約を締結していた事案で,パワハラと過重労働による適応障害の発症についてC社とD社(A社を吸収合併したENEOS)の共同不法行為(予備的にそれぞれ安全配慮義務違反)による損害賠償を請求しました(その他にC社からの雇止めの有効性も争っています)。A社の業務とC社の業務の密接な関連性があるなど事案の特殊性もあります(A社もC社も,労働者の二重契約を知っていた)が,いずれにせよ,裁判所の認定によると,パワハラと主張される事実は認められず,また長時間労働は,労働者の積極的な選択の結果生じたものであり,C社としても,労働者に対してA社での副業を辞めるよう約束させたりするなどしていて,注意義務ないし安全配慮義務の違反はないと判断されました。
 授業では,この事件を素材に,副業における安全配慮義務はどのように考えるべきか,ということも議論しました。厚生労働省の副業・兼業ガイドラインでは,「副業・兼業の場合には,副業・ 兼業を行う労働者を使用する全ての使用者が安全配慮義務を負っている」とし,「副業・兼業に関して問題となり得る場合としては,使用者が,労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら,何らの配慮をしないまま,労働者の健康に支障が生ずるに至った場合等が考えられる」ことから,①「就業規則、労働契約等において,長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には,副業・ 兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと」,②「副業・兼業の届出等の際に,副業・兼業の内容について労働者の安全や健康に支障をもたらさないか確認するとともに,副業・兼業の状況の報告等について労働者と話し合っておくこと」,③「副業・兼業の開始後に,副業・兼業の状況について労働者からの報告等により把握し,労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること」等が考えられるとされています。ただ,この①から③のようなことをしなければ,労働者に健康障害が発生したときに,安全配慮義務違反が生じるのかは明確ではありません。一方で,労働時間の通算規定(労働基準法381項)との関係では,副業先での労働時間の把握は望ましいものとされています。結局,企業は,従業員に副業を認めるときに,どのような態度をとるべきなのでしょうか。副業促進という政策に沿って,副業を広く認めたほうがよいのか,副業をすると一定の過労は不可避なので,副業に抑制的であるべきなのか,です。こうした企業の悩みは,さらに安全配慮義務違反の責任がどのような場合にかかってくるのかが不分明なことから,いっそう深まることでしょう。
 マルチプル・ワークは,基本的には労働者の私的自由の保障の問題と考えるべきです。しかし企業が,副業の内容(労働時間や業務内容から,どれだけ過重な負担となる副業なのかなど)を把握したうえで,自企業でのパフォーマンスに支障が生じると判断する場合に,副業を制限をすることは認められるべきでしょう(拙著『人事労働法』(弘文堂)73頁も参照)。これは労働者の私的自由の保障(人格的利益に関わるもの)と企業利益との調整の観点からくるものです。一方,健康配慮というもう一つの人格的利益との関係では,むしろ労働者の私的自由の保障を優先させ,企業があまり介入すべきではないし,それゆえ安全配慮義務をあまり強く及ぼすべきでもないと考えています(労働基準法381項についても,労働時間の通算は,同一企業での範囲にとどまるという解釈をとるべきです。前掲『人事労働法』184頁)。政府は副業の促進政策を進めるうえでは,本来,労働時間の企業間通算規定の撤廃や健康配慮の問題の整理をしておくべきであったと思います(補償面で労災において複数業務要因災害が認められたことをどう考えるかという問題もあります)。過労の問題については,いつも私が述べている労働時間規制から自己健康管理へというのが解決策となります。マルチプル・ワーカーこそ,労働時間規制ではなく,自己健康管理がぴったりきます(どういう労働者が副業に向いているかについては,拙著『雇用社会の25の疑問(第3版)』(弘文堂)36頁も参照)。企業との雇用関係がないフリーランスについては自己健康管理をせざるを得ないのですが,マルチプル・ワーカーのように複数企業にまたがって働く場合にも,同じようになるのです。

 

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