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2022年10月30日 (日)

「法の支配」207号に登場

 「法の支配」207号に拙稿が掲載されました。「環境変化の中での労働法の課題」というのが特集テーマで,そこで私はDX関係のテーマを割り当てられました。すでに数多く書いているテーマなのですが,今まで寄稿したことがない雑誌であり,また執筆陣が豪華であったので,そこに加われるのは光栄なことだと思い,お引き受けしました。
 何が環境変化を引き起こしているのかというと,それはコロナではなく,デジタル技術であるというのが私の持論ですが,でもコロナはいろんな問題をあぶり出す機能もあります。その点で,この雑誌のなかで濱口桂一郎さんが執筆されていた「新型コロナウイルスと労働政策の課題」は,問題が紹介されていて参考になります。
 私が寄稿した論考のタイトルは「DXのもたら影響と労働政策の課題」というものですが,実は当面の労働政策の最も深刻な課題は,コロナ禍での雇用調整助成金などの種々の助成金の大盤振る舞いで,自立性がゆるんでしまった経営マインドをどう立て直すかです。国の助成で雇用を維持して経営するという時代ではないのです。私は雇用維持型の政策からの転換の必要性をずっと訴えていますが,濱口さんの『日本の労働法政策』(JILPT236頁以下でも詳しく説明されているように,国の政策レベルでは,実際には,労働移動促進政策への移行はされてきたようです。そういうなか,コロナ禍で緊急避難的な雇用維持型の政策が復活してしまいました。上記の経営マインドの弛緩だけでなく,雇用保険の財政面や国庫負担の増大という問題も起きています(今日も雇用調整助成金の巨額の不正受給のことが報道されていましたね)。一方で,岸田政権は,労働移動政策に力をいれるような態度だけは示していて,ジョブ型やリスキリングにも言及するのですが(そのことは評価できるとしても),いまなお残っている雇用維持型政策との折り合いというか,その出口をどうみつけるかということについては,どうするのかよく見えてきません。そこをきちんとやってもらわなければ,DXに向けた政策課題を論じるまえに,日本は沈没してしまいかねません。流動化政策(労働移動促進政策)をきちんと立て直し,一貫した体系的な政策をたて,何が本筋で,何を緊急対応でやるのか(その出口も明確にしなければなりません),ということを示してもらいたいです。そこがしっかりしてはじめて,本格的なDX時代の労働政策を論じることができるのです。岸田政権の支持率が下がっているのは,労働政策・雇用政策に明確なビジョンがないことも大きいと思います。
 ところで,「法の支配」という雑誌名ですが,個人的には,「法の支配」は,「人の支配」のアンチテーゼにすぎず,それはよいとしても,法が出しゃばって社会を「支配」することはよくないと考えています。いかにして法がそれほど前面に出ずに(国民と寄り添いながら)社会を治めていくかを考えるのが大切なのです。今回の論考では論じていませんが,デジタル時代に合った法の役割というものが重要だと考えています。私の行為規範を重視する議論も,それと関係しています。 

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