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2022年10月 1日 (土)

営業秘密侵害罪

 かっぱ寿司を経営するカッパ・クリエイトの田辺社長が逮捕されました。容疑は,不正競争防止法の営業秘密侵害罪だそうです(21条)。法人も両罰規定(22条)により送検されるようです。
 報道されているところによれば,はま寿司の取締役であった田辺社長が,カッパ・クリエイトに移籍することになり,それにともない仕入れ先データなどを持ち出して,社内で共有し,使用したということのようであり,これをサポートした社員も逮捕されています。かっぱ寿司も,はま寿司も行ったことがありません(どちらも,神戸にはほとんど店舗はないようです)が,両者は似たビジネスモデルを採用していたそうで,ライバルに差をつけられていたかっぱ寿司はかなり危機感をもっていたようです。いかによい品質のネタを安く仕入れるかが勝負の業界だそうで,そうなると,仕入れ先のデータは,業績に直結する最重要データなのでしょう。それを盗まれては,たまったものではありません。同業他社間の移籍となると,当然,こういう秘密持ち出しの危険性は出てくるわけですが,これまで耳にすることが多かった,従業員による技術情報の持ち出しのケースとは異なり,経営幹部が仕入れ先などの営業情報の持ち出しをしたということで,カッパ・クリエイトの企業イメージは大きな打撃を受けることになるでしょう。営業秘密侵害罪では,たとえば営業秘密の取得は「十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」となっていて,決して軽い犯罪ではありません(211項柱書)。営業秘密の取得についての法人に対する罰金は,5億円以下となっています(2212号)。
 営業秘密の定義は,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」(2条6項)で,秘密管理性,有用性,非公知性という3要件が定められています。実際には,営業秘密とは何かをめぐって争われることもあります。企業としては,事後的に,損害賠償請求をしたり(不正競争防止法では,立証活動の困難性を考慮して,損害額の算定規定があります[5条]),行為者や法人に処罰を求めたりするよりも,事前に侵害を防止することが大切であり,そのためにも秘密管理の強化が求められることになるでしょう。労働法的には,退職時に秘密保持契約を厳格に結んだときの,その有効性というのが典型的な論点としてありますが,実は,これは民法90条の公序良俗違反という一般条項を用いるものにすぎず,その有効性の判断基準は明確ではありません。労働法では,この問題はむしろ不正競争防止法の問題であるという意識が強く,授業でもほとんど扱わないように思います。
 秘密保持契約を結ぼうが,不正競争防止法での刑事罰の厳格化がなされようが,一定の効果は期待できるもののやはり限界があり,根本的な解決手段は,データの持ち出しをいかにしてテクノロジーで阻止するかにかかっているように思います(デジタル・フォレンジック(Digital forensics)の導入なども予防効果があるでしょう)。

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