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2022年10月15日 (土)

日東電工事件

 日本法令で連載している「キーワードからみた労働法」の第184回は,「合理的配慮義務と自動退職」というテーマです。自動退職(自然退職)は,以前に扱ったことがあるテーマですが,神戸労働法研究会で,弁護士の千野博之さんに担当いただいた日東電工事件・大阪高裁判決(2021730日)の報告に触発され,いろいろ考えるところがあったので,今回取り上げてみました。千野さんの評釈は,季刊労働法の最新号の278号で掲載されています。また,ジュリストの最新号の1576号では,上智大学の富永晃一さんの評釈も掲載されています。
 事案は,プライベートな事故で大けがを負い休職していた労働者が,本人が希望していた元の職場には戻れないと判断され,休職期間満了にともない退職扱いとなったというもので,その措置の有効性が争われました(結論は有効で,会社勝訴)。
 休職期間の満了時の退職扱いの有効性については,休職制度自体が就業規則上のものなので,就業規則の規定の解釈が重要となりますが,それだけでなく裁判例上,いろいろな規範が適用されてきており,難解な論点となっています。今回の私の原稿では,「片山組事件法理」と名付けた休職中(あるいは自宅治療命令期間中)の賃金請求権に関するこの法理が,雇用終了の局面でどのように機能するかの検討をし,また障害者雇用促進法上の合理的配慮義務がこれにどう関係するかも検討しました。
 私は合理的配慮義務が公法上の義務であるという議論には疑問をもっており,私の提唱する人事労働法の観点からは,義務の根拠が公法的なものかどうかに関係なく,それにしたがった行動をとるのが良き経営のためには必要と考えます(公法上の義務といっても,結局は私法上の効力に影響する解釈になってくることが多いのです。公法上の義務論も,そのうち批判的な観点から採り上げようと思っています)。ただ,その合理的配慮義務の内容が,どういうものであるのかは問題です。合理的配慮の内容はできるだけ労使で話し合って決めるべきで,「納得規範」に照らすと,企業は,労働者の納得同意を得るよう誠実な説明をすべき義務を負うと解すことになりますが,それ以上の義務を負うものではありません。研究会では,本件で労働者は復職先を限定して希望していたとはいえ,それによって雇用の終了になるとまでは思わず,たんに第一希望を主張していただけかもしれないのではないかという議論もしました。そういうことも含めて,企業側に誠実説明が足りないところがあった可能性があるので,判決の結論の妥当性は微妙なところです。富永さんも,「本件では,過重でない配慮措置の限りでは現実的に配置可能な業務が存在しなかったものと推測されるが,その点はX[労働者]に事前に伝えることが望ましかったように思われる」と述べておられます(153頁)。このような望ましいとされる行動をとることが,人事において最も重要なところではないかと思います。

 

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