イタリア憲法の革新性
イタリアで,正式にGiorgia Meloni政権が誕生しました。労働・社会政策大臣は誰かとみてみると,あまり知らないMarina Calderoneという女性でした。政治家ではなく,政党に所属しないindipendente(独立系・実務家)です。 インターネット情報では,Consulente del lavoroとなっていました。仕事の内容としては,日本の社会保険労務士に近い感じでしょうか。学位は,economia aziendale となっていますので,経営学ですね。賃金政策などへの取り組みが期待されているのでしょう。いずれにせよ,民間からの抜擢という感じでしょうから,どのように手腕を発揮するか注目です。なお,イタリアでは保健省(Ministero della Salute)は,労働・社会政策省とは別にあります。憲法上も健康保護は独立して規定されています(32条)。
ところで,季刊労働法の次号に掲載されるイタリアの解雇法制の論文を書いているなかで,イタリア憲法が今年注目すべき改正をしていることに気づきました。まず憲法9条です。日本の9条とはまったく異なり,1項で「共和国は,文化の発展及び科学技術研究を促進する」,2項で「景観並びに国の歴史的及び芸術的財産を保護する」となっていたのですが,これに3項が追加されました。
「環境,生物多様性及び生態系を,将来の世代の利益のためにも保護する。国家の法律は,動物の保護の方法及び形態を規律する。」
環境,生物多様性,生態系,動物の保護が,憲法のなかに書き込まれました。すごいことですね。
次いで憲法41条2項です。憲法41条1項は「私的な経済活動(iniziativa economica)は自由である」という規定で,経済活動の自由を保障したものです。その2項で,従来は,「社会的雇用に反して,又は,安全,自由,人間の尊厳に損害をもたらすような方法で展開してはならない」と定められていたのですが,「社会的効用に反して,又は,健康,環境,安全,自由,人間の尊厳に損害をもたらすような方法で展開してはならない」と改正されました。経済活動に対する制約原理として,社会的効用(utilità sociale),安全,自由,人間の尊厳に加え,健康と環境が挙げられたのです。なんと21世紀型の内容でしょうか。日本では,憲法改正は大問題ですが,こういう内容の改正なら,誰も文句は言わないでしょうね。
憲法41条2項は,労働法においても,企業経営の自由との関係でよく出てくる規定なのですが,企業経営の公共性(社会的効用による制約)を正面から採り入れ,そこに環境や健康も組みんだことは,今後の労働法の議論にも何らかの影響をもたらすかもしれません。私の現在の問題関心とも合致するところがあり,まさかこういう形で,再びイタリア法と邂逅できたとは,という気分です。