生前譲位
イギリスの王室は,私が若いころは,それほど人気がなかったと記憶しています。スキャンダルも多く,極めつけはCharles皇太子(現国王)の離婚と,今回,王妃となったCamillaの存在でした。Charlesは,いまは知らないですが,イギリスでは不人気であるということは,よく耳にしていました。Dianaの死亡により,いっそうCharlesへの反感は高まったことでしょう。
ElizabethⅡは,即位前にすでに,自分の人生が,長くても短くても,自分の生涯をその任務に捧げるというスピーチをしていました。でも,まさか自分が96歳まで女王として勤めるとは想定していなかったでしょう。彼女は誓いを守ったのではなく,Charlesに任せるのには不安があったから,生前譲位できなかったのでしょう。Charlesの治政をできるだけ短くして,孫のWilliamに引き継げるようにしたかったのではないでしょうか。
イギリスが世界で犯してきた数々の非行は,決して消えないものです。Commonwealth(イギリス連邦)に50カ国以上も参加しているのは,それだけ侵略の過去があるということを示すものです。しかし,女王はその負の歴史を乗り越えて,しっかりイギリス連邦をまとめてきたのでしょう。女王は,自らの手で,見事に王室のイメージの回復に成功したのだと思います。君主制廃止論も,いまではあまり聞かれなくなっているのではないでしょうか。
翻って日本の天皇制も,昭和時代には批判論が少なくなかったと記憶しています。戦争責任の問題が重くのしかかっていました。しかし平成になり,現在の上皇のもつソフトなイメージや美智子妃の国民的な人気もあり,天皇家に対するイメージはずいぶんと変わったように思います。上皇個人には戦争責任があるわけではなく,それにもかかわらず戦争をずっと語っていたことも(当然のことをしていたにすぎないのですが)好印象を与えていたと思います。イギリス王室ほどのスキャンダルはない日本の天皇家ですが,なにかあれば,やはり税金をつかって皇族を支えるのはどうかという批判が当然出てきます。上皇は天皇在位中,危機感をもって,したたかに戦略を練って天皇家を守ろうとしてきたのでしょう。上皇が生前譲位したのは,健康状態もあったのかもしれませんが,すでに天皇家のイメージを揺るぎないものにしたという確信をもてたからからもしれません。ここがイギリスとの違いだったように思います。
令和への皇位継承はスムーズに行きましたが,その次はどうなるかはっきりしません。皇位継承順位は皇室典範で決まっているので,今上天皇の希望どおりにはなりません。しかし,譲位のタイミングは自分で選べるのだと思います。皇室典範では譲位の規定はありませんが,上皇のときは,特例法をつくって対応しました。先例があるので,できないことはないでしょう(ただし上皇は80歳を超え健康問題も抱えていた状況での退位であったので,それと同じくらいの状況でなければならないという縛りはかかってくるかもしれません)。それに生きていれば,皇室典範の改正だってあり得ます。女帝誕生もあり得ないことではありません(別にそれをとくに推奨しているわけではありません)。
ElizabethⅡは天寿を全うしたのでしょうが,彼女が生前譲位をしなかったことを考えると,死ぬに死ねなかったのではないか,という気もします。(かなり話は違うのですが)アメリアのRGB(Ruth Bader Ginsburg)が最高裁判事のリベラルの椅子を死守するために,自分は死ねないと頑張っていたことを思い出しました。
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