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2022年8月 5日 (金)

令和4年度最低賃金

 近年は,最低賃金は世間で大きな関心を集めていて,テレビでも連日,藤村さんの顔がアップで出ていましたね。委員のみなさんは,たいへんだったと思います。
 中央最低賃金審議会(目安小委員会)では,労使の合意にいたらず,公益委員の見解が発表されるのです(これは毎度のお約束ごとです)が,今回の地域別最低賃金の目安は,最も高いAランクの地域と次のBランクの地域は31円(時間あたり),CランクとDランクの地域も30円(時間あたり)でした。Aランクの東京都も,Bランクの兵庫県も,31円の引上げが目安として提示されました。従来からの慣行で4ランクあるのですが,今回は実質的には,全国一律30円ほど引き上げろということですので,そういうことであれば,ランクを設ける必要はないかもしれません。
 問題は,この目安額が,これから各都道府県の地方最低賃金審議会で審議される最低賃金に,どのような影響力があるのかです。
 地域別最低賃金は,2007年の最賃法の改正で,どの都道府県でも設けることが法文で明記されました。そして,「地域別最低賃金は,地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない」とされ(92項),「前項の労働者の生計費を考慮するに当たつては,労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」(同条3項)と定められました。実質的には,3項が新たな追加規定です。生活保護との逆転現象をなくすことを目的としたものです。
 地域別最低賃金は,従来から,中央最低賃金審議会が,全国的な整合性をもたせるために目安を定める実務がなされてきましたが,2007年改正後も,それは続いて現在に至っています。
 中央最低賃金審議会では,労使のトップが賃金交渉をして,その決裂後,公益委員が,その仲裁裁定として見解を出すようなものだと言われることもあります。だから「交渉決裂」まで待たなければならないので,時間がかかるのです。もちろん「交渉妥結」すればいいですが,そういうことはまず期待できません。関与する公益委員も大変な仕事でしょう。
 公益委員見解では,地方最低賃金審議会へのメッセージもあります。令和3年度は,「目安小委員会の公益委員としては,地方最低賃金審議会においては,地域別最低賃金の審議に際し,地域の経済・雇用の実態を見極めつつ,目安を十分に参酌することを強く期待する。また,中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることを要望する。」という簡単な付記がありました。
 今年度は「地方最低賃金審議会への期待等」という見出しをつけて,もう少し丁寧に書かれています。
「目安小委員会の公益委員としては,目安は,地方最低賃金審議会が審議を進めるに当たって,全国的なバランスを配慮するという観点から参考にされるべきものであり,地方最低賃金審議会の審議決定を拘束するものではないが,目安を十分に参酌しながら,地方最低賃金審議会において,地域別最低賃金の審議に際し,地域の経済・雇用の実態を見極めつつ,自主性を発揮することを期待する。また,中央最低賃金審議会が地方最低賃金審議会の審議の結果を重大な関心をもって見守ることを要望する。また,今後,公益委員見解の取りまとめに当たって前提とした消費者物価等の経済情勢に関する状況認識に大きな変化が生じたときは,必要に応じて対応を検討することが適当である。」
 丁寧に書いても,内容的には,地方最低賃金審議会に自主性発揮を期待すると言いながら,目安を十分に参酌するようにと言い,地方最低賃金審議会の審議結果に重大な関心をもって見守る(ことを中央最低賃金審議会に要望する)ということなので,どう自主性を発揮するのだろうと思ってしまいます。自主性というのは建前にすぎず,結局は,最低賃金引上げは,国の政策であり,地方はそれに従って決めればいいのだという感じもします。目安から逸脱できたとしても1円や2円のことでしょう。
 目安小委員会から地方最低賃金審議会へのメッセージは,いかにも役所言葉という感じがします。ネットで公開されているので,こういう統制的なやり方で最低賃金が決まっていくということを,私たちは知ることができました。もちろん,各都道府県では,何も基準がないなかで,ガチンコで審議しようとしてもおそらく困ってしまうでしょうから,目安をつくる意味は大きいと思います。ただ,それなら目安を参照してくださいくらいの言い方でよくて,目安を十分に参酌せよとか,監視しているとかは言う必要はないでしょう。厚生労働省は,官邸の意向をふまえて,言われたとおりやっていますよというポーズを示したいのかもしれません。
 いずれにせよ,いまのような決め方なら,もっと機械的に最低賃金を算出できるような方法を導入したほうがすっきりするかもしれません。そのためには,最低賃金の目的は何なのかを,まず明確にすることが必要です(同法の目的規定は抽象的です)。そうすれば何が「正解」かも特定でき,AIを活用できる可能性が出てくるかもしれません。

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