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2022年8月13日 (土)

スタートアップの支援

 第2次岸田政権は,スタートアップ支援に力を入れると述べています。これは「新しい資本主義」の主要テーマの一つです。日本からGAFAが生まれるにはどうすればよいか,ということを考えて,そうした心意気で事業に取り組んでいる企業者(entrepreneur)たちをどう支援するかは,とても重要な政策課題です。政府の取り組んできたフリーランス政策には,こういう側面もあります。スタートアップも最初は個人事業主かその仲間たちからのスタートで,起業し,成功を収めてIPO(新規上場)に至ることになるのです。スタート時点での様々な負担を助成することが大切ですし(失敗すれば致命的な打撃を受けるということがないようにすることも含みます。その点は,政府が「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」で,「初期の失敗を許容し長期に成果を求める研究開発助成制度を奨励する」としているのは高く評価できます),そのなかに人を雇用するときの負担を緩和することもあってよいのではないか,というのが,経済同友会の「規制・競争政策委員会」の提言「創業期を越えたスタートアップの飛躍的成長に向けて」のなかにある発想でしょう。
 スタートアップの支援には,基本的に賛成なのですが,そのための方法として,労働法規制の緩和をするのはハードルが高いのではないかと考えています。実は,私は約15年前に中小企業の適用除外について,神戸労働法研究会で共同比較法研究をしたことがあり,その成果は季刊労働法で連載されています(季刊労働法227号で私が総括論文を書いています)。
 あのときの研究成果は,いまなお有効であると考えており,スタートアップにおいて適用除外や特区的な扱いをするときに,どのような理論的な問題があるかを検討する際の参考になるのではないかと思っています。もちろん,そうした理論的な問題に関係なく,政治的なイニアシティブによりトップダウンで政策を断行することができないわけではないでしょうが,そういうことは「聴く力」を重視する岸田政権のカラーには合わないでしょう。
 適用除外構想に対しては,労働組合側が反対するのは当然予想されます。そうした反対は,たんなるポジショントーク的なものとはかぎらず,理論的な根拠もあるのであり,そういうものをふまえて,しっかり組合側とも対話して,スタートアップの支援をどうしていくのかを考えていく必要があります。
 私は,スタートアップの支援で問題となるような労働法の課題は,先日も書きましたように,そもそもすべての企業において問題となるものではないかと考えています。労働時間にしろ,解雇にしろ,規制の見直しが必要です。また,例えば,育児休業制度のようなものは,すべての企業に同じように導入を義務づけるのは行き過ぎではないかということは,拙著『人事労働法―いかにして法の理念を企業に浸透させるか』(2021年,弘文堂)で言及しています(203204頁)。
 規制緩和は必要だが,いきなり行うのは反発が強いので,まずスタートアップから始めようというのと,規制は維持されるべきだが,スタートアップには特別な配慮が必要であるから例外扱いをしようというのは,結果は同じですが,意味合いがかなり違います。前者は労働法そのものの見直しを志向するものですが,後者は現行労働法は維持しながら中小企業政策や産業政策の観点から例外的な規制緩和をしようとするものです。もしどちらかがよいかと問われれ私は私は前者だと答えるでしょう。
 ただ,私が提唱する人事労働法の立場は,スタートアップに雇用される人であろうと,それ以外の企業に雇用される人であろうと「納得」の要素を重視する納得規範を及ぼしていくべきというものです。スタートアップであっても,納得規範から免れることはできません。スタートアップが労働法規制を窮屈に感じるとすれば,それはその規制自体が硬直的であること,そして,そうであるにもかかわらずderogationの理論が十分に発達していないことにあります。納得規範は,これをふまえて,derogation の理論をさらに一歩進めたものであり,経営側と労働側にウイン・ウインをもたらすものだと思うのですが……。

 

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