ワクチン接種と政府の信用
ワクチンというのは,たしかに健康な人に(弱毒化や無毒化されているとはいえ)病原体を注入するものなので,おそろしいと考えて反対する人の気持ちもわからないわけではありません。赤ん坊には大量にワクチンを打ちますが,まだ生まれたばかりの子に次々と病原体が注入されると考えると,親は複雑な気分になるでしょう。予防接種法は,「A類疾病」(2条2項)であっても,努力義務であり,16歳未満の子に対して接種させるのも,保護者である親の努力義務にとどまります(9条)が,赤ちゃんの予防接種の忌避は,子の命を危険にさらすことになるので,合理的な選択とはいえません。
政府は,弱い立場にある赤ちゃんについては,ワクチン接種を推奨するために,定期健康診査のときにチェックしたり,無料にしたりするなど,親をワクチン接種に誘導していくことが必要でしょう(市町村長や都道府県知事は,予防接種の勧奨をするものと定められています[8条])。
新型コロナウイルスについてもワクチン反対派はいますが,それはワクチンを打っても感染することはあるとか,ワクチンの副作用が大きいのに対して,ワクチンを打たなくて感染しても重症化しないという理由からのようです。ただ,後者は,ワクチンを打たなかったら感染時に重症化するリスクが高まるということを見落としています。前者は,ワクチンの副作用は,実際に感染したときの副作用と同じか,それより若干軽いと言われていますし,加えて,ワクチン接種により,他人に感染させにくくなるというメリットがあると言われています。
ワクチン反対派のなかには,インフルエンザなどについて,感染した人がいたら,その人を招いて感染パーティを開いて,自然に感染しようとする人もいるそうです。水疱瘡などは,感染した子を招いて自分たちの子と遊ばせるというようなことをする人もいるそうです。早くに感染したほうが軽症ですむという親心よるものなのでしょう。そこにあるのは,自然感染のほうが,ワクチンよりも良いという判断ですが,毒を抑えたワクチンの接種よりも,子を危険にさらすリスクが大きいことを見落としているでしょう。
ワクチンについて,政府が推奨することに批判が出てくるのは,結局のところは,政府が信用されていないからです。その隙をついてSNSなどで,ワクチン推奨は政府の陰謀というような怪しい情報を信じ込まされてしまうのです。ワクチンにもリスクがありますので,そのメリット・デメリットを冷静に考えたうえで,ワクチンを避けることはありえるでしょう。ただ,私は個人的には,赤ちゃんの予防接種やコロナワクチンなどにおいて,ワクチンの接種を政府が推奨することは間違っていないと思っています。むしろワクチン不足のほうが心配です。
政府が国民の命を守るために大切なのは,ワクチンの接種を強制することではなく,国民が政府の言うことだからその推奨に従ってワクチンを接種しようとする気持ちになれるくらい,国民から信頼される存在となることです。
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