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2022年7月14日 (木)

ジェンダーギャップ指数の読み方

 恒例の世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)のGlobal Gender Gap Report2022年版が発表されました。日本の総合順位は116位で,先進国のなかでも,また東アジア・太平洋地域のなかでも最下位ということで,みっともない感じです。もっとも,こういうランキングは,何に着目して評価されたかが重要です。主たる評価項目は,Economic participation and opportunityEducational Attainment, Health and SurvivalPolitical Empowerment4つで,それぞれ経済,教育,健康,政治と略することができるでしょう。このうち,日本は,教育は1位ですが,経済が121位,健康が63位,政治が139位です。たしかに,経済と政治が低いのはわかるのであり,ここは改善しなければならないところですが,健康が63位というのは解せません。WWFは,Sex ratio at birthHealthy life expectancy でみたようです。つまり,出生時の男女比率と健康寿命です。実は日本は,前者は1位,後者は69位なのです。日本は平均寿命も健康寿命も女性のほうが高いのですが,健康寿命の男女差はそれほど大きくありません。ここがマイナス評価となったのでしょうか(レポートを詳しくみれば説明してあるかもしれませんが,それは他の方の分析に任せます)。健康寿命の男女差が順位を引き下げている(比重はそれほど大きくないかもしれませんが)とすると,大いに疑問があります。むしろ平均寿命が女性のほうが男性よりかなり長いことなどもふまえると,健康面での格差があるとは考えられず,それに教育レベルでの格差がないにもかかわらず,管理職の女性比率や政治面での議員・閣僚の女性比率が小さいということを,どう読み説くかというこそ大切です。教育水準が上がっても,そういう女性人材を,日本社会は十分に使いこなせていないことが問題なのです。これは人権問題というようなことではなく,日本社会の仕組みが非効率になっていると捉えるべきでしょう。人権問題とみてしまうと,実は女性の幸福度はそれほど低くないといった議論も出てきて,話が混乱してしまいます。私は個人的には,政治家になりたくない,管理職や経営者になりたくないと女性が思うのなら,それを尊重すべきであるので,結果としてのジェンダーギャップだけながら必ずしも問題視しませんが,実は,その根底にある日本社会の(かつての成功の基礎となった)「男の論理」で,女性の能力発揮が妨げられている状況があることが,真の問題だと思っています。能力ある女性が,大企業から離れて,フリーランスになったり,スタートアップで活躍したりするのは,組織文化に愛想をつかしているという面もあるはずです。能力ある女性に見捨てられるような組織が社会に数多く存在している状況こそ,日本の危機なのです。
 政治の世界はなかなか変わりそうにありません。今回の参議院選挙で,女性の当選者が増えたとはいえ,まだわずかです。それのみならず,その選挙スタイルは旧来型のようです。全員をみたわけではありませんが,当選したら支援者に囲まれて万歳をして,深々と頭を下げてお礼をするというようなところに象徴されています。これでは男性文化に染まった女性が増えただけではないかという懸念があります。そういう女性が増えてジェンダーギャップの数値が減少しても意味がないのです。男女は別であることを前提に,男性中心の論理,文化,考え方を揺るがせて,新しい風を吹き込むことこそ,女性に期待したいのです。それは,新しい価値観をもつ人が増えている若い男性にもフィットするものです。こうして男女ともに,生きていくうえでの様々な場面で選択機会が広がっていくことが理想です。
 ところで,私の周りをみてみると,大学は,普通の社会よりも比較的男女平等が進んでいるところだと思いますが,労働委員会の委員をみると,どうでしょうか。全国における労働委員会委員の女性比率,さらには会長,会長代理の比率を一度,調べてみてもよいでしょう。絶望的な数字が出てくる予感があります。さすがに中央労働委員会は,公益委員は,(名前だけからの推測ですが)女性が7人いて約半分です。会長代理には,両角さんがいます(いつかは,女性会長が誕生するかもしれませんね)。

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