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2022年7月30日 (土)

本日の神戸労働法研究会

 今日は,大学院生と研究生により,それぞれ沖縄医療生活協同組合事件(那覇地判2022323日)と社会福祉法人緑友会事件(東京高判202134日)の報告をしてもらいました。前者は,パワハラとプライバシー侵害の事件です。パワハラについては,労働組合内部での組織構造上の上下関係のなかでのパワハラが問題となったものですが,LINEでの発言によるという現代的な要素のあるケースでした。パワハラ発言の期間は短いにもかかわらず,100万円という比較的多額の慰謝料が認められており,その妥当性についても議論しました。また,判決は,労働施策総合推進法30条の2のパワハラの定義と損害賠償責任を直接結びつけていることについても問題があるのではないかという議論がなされました。同法上のパワハラ概念は,事業主の措置義務との関連で出てくるものであるのに対し,損害賠償責任は,本来,安全配慮義務(労契法5条)や労働契約上の信義則を根拠とする職場環境配慮義務などに違反することから生じるもので,両者は理論的には直結しないということからくる疑問です。それに労働施策総合推進法によると,文言上,「優越的な関係」が要件となるなど,同法上の限定的なパワハラ概念を前提とすることになるため,この定義を参照することまではよいとしても,事案によっては,かえって労働者に不利となる可能性があります。プライバシー侵害については,パワハラをしていた医師が勝手に被害者とその妻の電子カルテを閲覧していたことが,プライバシー侵害の不法行為であると認められたのですが,閲覧行為と個人情報保護法違反との関係はどういうものか,また,本判決が医師を雇っていた生協の民法715条の使用者責任の免責(相当の注意)を認めなかった判断について,事業主のデータセキュリティーのあり方ということもからめて議論しました。
 緑友会事件については,均等法93項・4項と労契法16条との関係を中心に議論しました。問題の根幹は,均等法93項の趣旨をどう捉えるか,つまり妊産婦の保護という趣旨をどこまで大きく考慮して,解雇の有効性を判断すべきか,ということにあり,それによって94項の証明が認められる範囲に影響が出るのではないか,というようなことを議論しました。解釈によっては,均等法94項の1年という要件は,労基法19条違反の解雇と同様の解雇禁止期間に近いような機能をもつ可能性もありそうです。本件では,そもそも解雇事由が認められなかったということで解雇無効となり,その結論は妥当と思いますが,かりに解雇事由が認められる場合において,動機の競合のようなことになった場合,均等法94項の存在により,結論がどのような影響を受けるのかなども議論をしました。
 どちらの事件も,最初は単純な事件のように思えましたが,立法論も含めて理論的に深く検討していくと,いくらでも掘り下げることができそうでした。上記の論点以外にもいろいろな議論ができて,個人的にはたいへん勉強になりました。少し賢くなったかもしれないと思って1日を終えることができるのは有り難いことです。

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