最強の女性判事
RBG(Ruth Bader Ginsburg)が,もし生きていたら,アメリカの連邦最高裁の現状をどう言っていたでしょうか。Trump政権になって,最高裁判事が,次々と保守系に入れ替えられるなか,自分は死ねないとして,ガンを患いながらも必死に頑張ったGinsburg。前にも書いたことがありますが,最後は執念だったのでしょう。しかし,2020年9月に力尽きました。そして,Trumpはすぐさま,保守系の女性判事を選びました。リベラル派は,いまは少数派です。人工中絶反対派が多数となったあとの,最高裁の判例変更は,アメリカ社会のこれまでの亀裂を決定的なものにしたようにみえます。法制度を含め,民主主義国の先生として,アメリカから多くのことを学んできた日本にとって,今後はアメリカは反面教師であり,私たちは,自分たちのことは自分たちで考えていかなければなりません。
NHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」は,いつも楽しみにしていますが,最近配信された「RBG 最強と呼ばれた女性判事 女性たち百年のリレー」は,感動的でした。数日前に選挙のことを書きましたが,性差別問題においても,女性の選挙権の獲得は大きな課題でした。女性の参政権が認められたあと,女性たちが求めたのは,偏見による機会剥奪との闘いでした。RBGの印象的な言葉は,女性は優遇を求めているのではない,男性が踏みつけている足をどけてほしいのだ,というものでした。
この番組で描かれたアメリカ社会における男女の不平等の根強さは驚くべきものでした。アメリカの人種差別はよく言われてきましたが,男女差別はそれほど遠くない過去まであったのです。私は男女の役割分担というのはあってよいと考えていますが,そのことと,男女の同権とは別の問題です。男女は同権で,そのうえで男女が,社会からの抑圧や偏見を受けることなく,自由に自分の生き方を選択できて,機会が与えられる社会がつくられるべきだと思っています。
この番組は,イギリスで100年以上前に,女性参政権を訴えるために,国王の馬のまえに飛び出して,蹴り殺されてしまった女性Emily Davisonの話から始まります(この映像は不鮮明であってよかったと思うほど,とてもショッキングです)。多くの男性よりも優秀であったにもかかわらず,女性であるというだけで差別され,政治運動の際には何度も投獄され,そこで拷問を受けてもめげず,最後は命をなげうって抗議したということが,そんなに遠くない昔にイギリスで起きていたのです。
そんなDavisonに影響を受けたというRBGを最高裁判事に選んだClinton大統領は賢明な選択をしました。政治的にリベラルかどうかというような次元を超えて,知性があり,公正で,そして実行力もある人材を,連邦最高裁判事というアメリカでの最高の要職につけたのです。人事とはこういうものでなければなりませんね。RBGは,法の力で,社会改革を進めました。
Clinton 元大統領の妻であるHillaryは,女性にとって最も厚そうなglass ceiling(見えない天井)を突き破る一歩手前まで行きましたが,最後に力尽きました。しかもロシアも選挙戦に関与していたというのですから,すさまじい壁にぶつかったといえます。ただHillaryの敗戦の弁は潔く,女性たちに多くの希望を与えるものでした(Trumpの見苦しさとは対照的です)。
日本でもおりしも男女賃金格差の開示が義務付けられるなど,女性活躍推進への動きは進みつつあります。重要なのは,まだ組織の上層部にいる守旧派であり(そこには,女性であっても男性社会の論理に適合して成功した人も含まれます),こういう人たちは女性に対する偏見があるだけでなく,デジタル化などの新しい動きへの変化の壁になっています。必要なのは組織風土の変化です。
政府与党にもまだ保守的な人たちがたくさんいます。それが変化するかどうかの試金石は,選択的夫婦別姓制ではないでしょうか。日本の最高裁は,夫婦同姓(同氏)制を合憲としましたが,4人の違憲判断がありました。最高裁は,決して,選択的夫婦別姓制に後向きなわけではありません(ちょうど1年程前に,このテーマでブログを書いています)。RBGのようなインパクトのある判決は,現在の日本の最高裁に期待できないかもしれませんが,それでも最高裁はメッセージを送ったと思います。立法府は自ら動く必要があります。安倍氏は反対派の代表でしたが,安倍氏亡きあと,自民党内の空気はどう変わっていくでしょうか。
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