SMBC日興證券相場操縦事件
岸田政権は,「貯蓄から投資へ」と言い,個人の株式市場への参加を促してきているのですが,その一方で,金融所得への課税を強化しようとしたこともあり,ちぐはぐな感じがします。
SMBC日興證券で問題となった「ブロックオファー取引」は,証券会社が,取引市場外で,大量の株式を購入し(持ち合い解消などの目的で大量に売りに出されることがある),それを市場価格より安価に相対で取引時間外に個人投資家に売却し,その差額を証券会社が利益として得るという取引だそうです。株が大量に出回ると市場価格が低下してしまい,ブロックオファーが成立しない可能性があるので,証券会社が株式を購入して相場を支えることがあり,それが今回の相場操縦という金商法上の犯罪(159条,197条1項5号など)に該当するのではないか,ということが問題となりました(日本経済新聞2021年11月3日の記事「市場の公正揺るがす SMBC日興社員,相場操縦疑い 時間外取引,不成立恐れ買い支えか」も参考にしました)。
相場の安定という名目で,相場が人為的に操縦されているということになれば,個人はそういう市場に参加することに,とても臆病になるでしょう。個人がなけなしのお金を少しでも殖やしたいと思うとき,リスクはできるだけ取りたくありません。証券投資はただでさえリスクがあるのに,その取引市場において透明感がないとなれば,「貯蓄から投資へ」はうまくいかないでしょう。
今回,逮捕されている社員には外資系の会社からきた人たちもいたそうで,その高いスキルで会社に大きな利益をもたらしていたそうです。そのことが会社による違法性のチェックを甘くしていた可能性もあるということですと,これはこの会社の組織ぐるみの問題です。SMBCのブランドイメージも大きく傷つきました。どう挽回するのか。また政府は,証券市場に対する国民の不信感の払拭のために,どのような対応をするのでしょうか。参議院選の主要なテーマではないのかもしれませんが,注目したいところです。