健康診断と健康診査
法律において「健康診断」という言葉が使われることがありますが,私が不勉強なだけかもしれませんが,その定義はどうも明確ではないように思えます。 労働安全衛生法66条のように,「健康診断」の定義はされていなくても,「健康診断」として何をするかが明確になっているものであれば,そういうものを健康診断と呼ぶと考えれば済むので,「健康診断」の定義をあえてする必要はないのかもしれません。しかし,次のような場合はどうでしょうか。
育児介護休業法は,小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に対して,子の看護休暇というものを,原則として,年間5日認めています。この休暇は,「負傷し、若しくは疾病にかかった当該子の世話又は疾病の予防を図るために必要なものとして厚生労働省令で定める当該子の世話を行うための休暇」と定義されています(16条の2)。そこでいう「厚生労働省令で定める当該子の世話」とは,「当該子に予防接種又は健康診断を受けさせること」とされています(同法施行規則32条)。「健康診断」という言葉が出てくるので,そこでいう健康診断がどういうものであるかがはっきりしなければいけません。常識的には,健康診断とされるものの範囲は特定できるのだと思います。ただ若干気になるのは,母子保健法に基づく「健康診査」が「健康診断」に含まれるのかです。いわゆる一歳半児検診や三歳児検診については母子保健法12条1項では「健康診査」とされており,男女雇用機会均等法12条でも「健康診査」という言葉が使われています。もし「健康診査」と「健康診断」が別の概念であるのであれば,「健康診査」のために子の看護休暇をとることはできないことになってしまいそうです。
ネット上は「健康診断」と「健康診査」は根拠となる法令によって言葉が違うだけで内容は同じという情報が飛びかっているようであり,おそらくそういうことなのかもしれませんが,その根拠はよくわかりません。
同じ労働法の分野の法律なので,まぎれがないようにするためには育児介護休業法施行規則にいう「健康診断」には母子保健法上の「健康診査」も含むという括弧書きを入れておいてもらえればと思います。
前から男女雇用機会均等法の説明をする時に,12条に軽くふれて,女性労働者の保健指導と健康診査に必要な労働時間の確保することができるようにしなければならないという規定があると説明はしていました。そのときに「健康診査」という言葉への違和感(これはどういう意味であろうという,かすかな疑問)はあったのですが,あまり突き詰めて考えていませんでした。
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