EUの労働政策
EUは長い目でみれば斜陽の地域であり,労働法の分野でも, EUから学ぼうという姿勢が強すぎる人が多いのはどうかと日頃から思っているのですが,そうは言っても,やはりまだ学ぶことはありそうだと思うこともあり,私の評価は揺れ動いています。とくにEUは戦略をたてるのが上手であり,たとえばデータ社会となることを見越して,GDPR(一般データ保護規則)でルール形成を主導して,競争上優位に立とうとする姿勢などは見事です。
いま労働法の世界で最もホットなissueは,プラットフォーム労働でしょう。私もいま共同研究に着手しています。昨年12月のEUの指令案は,おそらく多くの労働法研究者がすでに分析を始めていると思います。プラットフォーム労働やフリーランス政策などで,なかなか突破口がみつからないなかで,EU労働法は,多くの研究者が参考にしようとしているでしょう。そうしたなか,濱口桂一郎『新・EUの労働法政策』(JILPT)は,最新の動向も入っていて,とても役に立つ貴重な文献です。いつも,お気遣いいただき,ありがとうございます。
ところで,私がいま関心をもっているのは,プラットフォーム労働という新しい現象にどう斬り込んでいくかです。新たな発想が必要となるのですが,そういう問題関心からは,EUはやや保守的かもしれません。また,プラットフォーム労働は,雇われない働き方の一類型であり,フリーランス政策の一つとしても注目すべきものです(濱口さんからは『フリーランスの労働法政策』もいただき,これも大変参考になる本で感謝しております。超人的な仕事量ですね)。日本労働法学会誌の最新号でも「プラットフォーム・エコノミーと社会法上の課題」が扱われていますし,ジュリストの最新号でも「プラットフォームワークと法」が特集されており,当面は,デジタルプラットフォーム,フリーランス,EUが,労働法研究のキーワードとなりそうです。
ところで,濱口さんからは,もう一冊,『ジョブ型雇用社会とは何か―正社員体制の矛盾と転機』(岩波新書)をいただいておりました。お礼が遅くなり申し訳ありません。先日の税制調査会でも,濱口さんのジョブ型への思いのこもった熱弁を聴いて,感銘を受けました。私の印象では,「ジョブ型」は,諏訪康雄先生の「キャリア権」と同じように,いまや「創業者」の手から離れた概念であり,各人がそれぞれ定義して使ってよいような気がします。ただいろんな人が「ジョブ型」という言葉を勝手に都合良く使って適当な議論をしていることは,「本家」としては看過できないことであり,そのいらだちは理解できないわけではありません。
労働者の採用がジョブ限定となり,賃金も職務給になっていくという意味でのジョブ型については,政策的に誘導するかどうかではなく,DXが進むと,おのずからそうなっていきます。だからジョブ型に備えた政策を考えなければならないという点こそ重要だと思っています。ジョブ型となれば,雇用は流動化しやすいし,解雇は現行法の下でも理論的にはやりやすくなります(解雇回避の範囲が狭まるからです。もちろん,実際に解雇をどこまで自制するかは企業次第です)。この点の私見については,拙著『雇用社会の25の疑問―労働法再入門―(第3版)』(2017年,弘文堂)の第12話「ジョブ型社会が到来したら,雇用システムはどうなるか。」を参照してもらえればと思います。
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