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2022年6月28日 (火)

副業の促進

 625日の 日本経済新聞の朝刊の1面に「厚労省 副業兼業の促進」という記事が出ていました(今日も続報が出ていました)。副業を規制する場合には,企業はそのことを開示することが求められることになりそうです。副業は,昔ならマージナルな論点だったのですが,いまや日本型雇用システムの転換を象徴する論点といえそうです。
 そもそも日本企業が好んで副業を制限してきたことと,法律論としてみた場合,副業の制限はおかしいということの交錯が,この問題を考えるうえでのポイントとなります。企業が副業を制限したがるのは,三つの側面があります。一つは,日本の正社員の場合には,残業が付きものであり,休日労働すらもあるということからすると,副業する余裕などないはずだということです。副業をする余裕のあるような働き方は想定していないということです。また正社員はその企業の一員として忠誠を尽くすべきなのであり,別の企業にも雇用されて忠誠を尽くすという「二股をかけること」は許さないという意味もあります。さらに 企業は人材育成に費用をかけているので,そこで蓄積した技能を他の企業で使われるのは困るということもあります。副業にはいろんなパターンがありますが,蓄積した技能を生かすとすれば同業他社での副業であって,そういうものは困るということです。競業避止義務はそのために課されるのです。また同業他社でなくても 企業が副業によって新たな知見や技能を身につけると転職されやすくなります。日本の企業は,従来,教育投資からのリターンを確保するために,いかにして従業員に長く居続けてもらえるかを考えてきたのであって,そういう点でも副業は望ましくないわけです。
 ところが,この前提状況が変わってきました。日本型雇用のシステムの根幹である正社員の働き方,そして企業による人材の育成やそのための長期雇用の必要性がなくなってきていることが重要なポイントなのです。自社で教育訓練をしないから,他社での就業経験でスキルアップしてもらうことには,むしろ利益があるのです。同業他社ではなく,異業種での経験のほうがプラスになるということもあります。根本的には,副業解禁の背景には雇用の流動化があり,それは同時に日本型雇用システムの崩壊および長期雇用慣行の終焉というものを意味しています。
 もう一つの視点は,労働者にとって,勤務時間以外の時間をどのように使うかは私的自由の問題であるということです。副業制限には,職業選択の自由という憲法上の権利の制限という意味もあります。ただ,これは原理的な問題で,具体的に副業を規制する法律は存在しないので(民間企業の場合),就業規則の合理的な規定によれば副業を制限をすることはできないわけではなく,厚生労働省が作成したモデル就業規則でも,少し前までは副業の許可制をモデルとして定めていて,これが事実上の指針となり,副業制限について,厚生労働省もお墨付きを与えていたのです。そのモデル就業規則が改正され,さらに今回のような動きが出てきたのであり,厚生労働省は大きく方向転換をしたといえます。副業イコール雇用の流動化ではありませんが,上記のように副業促進は雇用の流動化と親和性の高い政策です。一方で,雇用調整助成金のダラダラとした延長をやっているようなこともあり,厚生労働省は,雇用流動化政策を,どうやって一貫したシナリオで提示できるかが,いま問われているのでしょう。

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