就活学生へのエール
昨日の話の続きですが,学生にとって,就活が人生の一大イベントでなければよいのになあ,といつも思っています。たしかに,就職は学生にとって大きな出来事ではありますが,今後,人生で何度も転職しなければならないかもしれません。そもそも人生100年時代は,仕事をしたり,勉強をしたり,ボランティアをしたり,育児や介護をしたり,というような時期を何度も行ったり来たりすることになります。仕事をする時期は,その一部であり,今後は人生のなかに占める割合が徐々に減っていくでしょう。
そうは言っても,学生は,目の前のことに必死で,藁にもすがる思いで,就活を助けてくれる人を頼ってしまうことがあります。それでうまくいけばと願いますが,これまた老婆心ながら,落とし穴がないかは,よくよく注意をしてもらえればと思います。
労働基準法6条には,「何人も,法律に基いて許される場合の外,業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」という規定があります。他人の就業に介入して(業として)利益を得る行為は,歴史的にみて,人権侵害が起こりやすかったから,こういう規定があります。今日では,職業安定法できちんと(厳しすぎるくらい)規制しているので心配ないかもしれませんが,それでも自分の就職に誰かがビジネスで関与してくることには,どこか危険なところがないかという「危機アンテナ」は張っておいたほうがよいです(自分がお金を払っていなくても,企業側が払っている場合は,それでビジネスとして成立しているし,自分が金蔓にされている可能性はあるのです)。
もちろん仲介というビジネスは,うまく機能すれば素晴らしいものです。見ず知らずの人をとりもってマッチングするというのは,今後はAIが進出してくる可能性があるとはいえ,やりがいのある仕事であり,社会的価値の高いものです。でも,これも人によります。
私は雇用仲介サービスを利用した経験はありませんが,賃貸住宅などの仲介サービスは何度か経験があります。物件への不満というのはあまりもったことはないですが,仲介段階で,きちんとした情報提供を受けることができなかったという不満はよくもってきました。実はそれは良い面に転んだときと悪い面に転んだときの両方があるのですが,いずれせよ情報不足のなか,入居してどちらに転ぶかわからないというような状況が残るようでは,良いマッチングとはいえないでしょう(良い面に転んだときは,貸主や売主のほうが,もっと価格を高く設定できたかもしれないという点で損をしており,それも客観的にみれば良い仲介ではないでしょう)。仲介者の方は責任感と倫理観をもって,プロとしてのスキルで,良い仲介をしたと自信をもてるような仕事をしてもらいたいですが,住宅の仲介には物足りないことが多かったのです(例外もありましたが)。就活でのサポートも同様で,もし企業を紹介するのであれば,その紹介先の就業規則の内容を十分に把握しているのは当然のことですし,これにプラスして社風,従業員の男女別の平均勤続年数,年次有給休暇や育児休業などの取得率や平均の所定外労働時間数(青少年雇用情報も参照),過去の労災認定の数(およびその内容),過去の労働裁判の数(および紛争の内容),学閥の有無などの情報もあれば学生には役立つでしょう。単なる数字だけでなく,実態的なところまで伝えてもらう必要があります。入手が困難な情報も多いでしょうが,ほんとうのプロなら,この程度の情報はもっておくべきです。もちろん学生は情報を数多く与えられても,悩んでしまうことが多いでしょう。そこでうまくサポートできてこそ,プロの仕事なのです。
就活は,これからの長い社会人生活の第一歩にすぎません。それでも,良い企業と出会えて,良い門出ができるに越したことはないのであり,就活学生たちにエール(yell)を送りたいです。
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