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2022年6月 5日 (日)

シビリアン・コントロールの重要性

 NHKプラスで2009年に放映されたロシアとグルジア(ジョージア)との戦争を扱った番組を観ました。旧ソ連の構成国であったジョージア(グルジア)との紛争は,同じような立場にあるウクライナとの今日の紛争を考えるうえで参考になるものでした。まさに同じことが繰り返されているのですね。ジョージア内におけるロシア人の独立派(南オセチアの人)が弾圧されているので,それを救うために軍を出すという大義名分があり,その背景には,ジョージアが西側寄りとなりNATO加盟の可能性があるという点などは,ウクライナの状況とよく似ています。すでに旧ソ連からの独立国ではバルト3国がNATOに加盟していますが,これら小国と異なり,ウクライナは大国であり,その影響ははるかに大きいものです。ロシアは,国内の独立派と戦ったチェチェン紛争では制圧に時間がかかり軍の弱体ぶりを示してしまいましたが,Putinは軍の強化を図ってきました。その成果をウクライナ侵攻でみせようとしたのかもしれませんが,思わぬ長期戦になってしまったようです。ただPutinにしてみれば,ロシアを守るためには,ロシアと国境を接するところにNATO加盟国が次々と登場することは避けなければならず,とりわけウクライナは兄弟国として特別な関係がありましたから,もはや撤退できないのでしょう。
 Putinは愛国教育をし,すぐれた軍人を育成することに力を注いだようです。軍隊の立て直しをし,クリミア半島の占領などの成果(?)もあげてきました。今回も精鋭部隊を投入すればあっというまにウクライナを降伏させることができると考えていたのかもしれませんが,そうは行きませんでした。この戦争のこれまでの戦争との違いは,戦争状況が動画付きで逐一世界でながされていることです。ロシアは国内ではマインドコートロールに成功したかもしれませんが,国外ではそれは通用しません。ウクライナに次々と最新の武器が供与され,またエネルギーや食糧に影響が出ても,できるだけ耐えようというムードが世界中に広がるなか,ロシアの勝機はどんどん小さくなっている感じがします。それに中国問題もあります。アメリカは,ロシアの行動が,中国の今後の行動に影響するとみているので,ロシアが破滅的な行動をとらず,しかし勝利を収めることもないように,この戦争を収束させたいと思っていることでしょう。もっともアメリカに,そうした戦争の終結のシナリオを実現できるだけの力があるかは疑問符も付きますが。Trump時代のつけで,ロシアだけでなく,アメリカも信用できないと考えている国は世界でも少なくないでしょうから。
 軍事力の強化を進めてきたロシアにとって,何か紛争の種があれば軍事力で解決しようとする発想になるのは避けられないことであったのかもしれません。不幸にもそれに連動して世界は,平和維持という名の下に,軍拡競争の流れに飲み込まれようとしています。フィンランドやスウェーデンのような国まで巻き込み,そしてついに日本も同じ流れに乗ろうとしています。冷戦時代,ソ連が北海道や九州に上陸してくるという声が自衛隊関係者からさかんに出されたことがありました。最近再び,中国,ロシア脅威論から,同様の声が上がってきています。自衛隊関係者には,彼らなりの論理があるのでしょうが,それが暴走すれば危険であるということは,過去の教訓から私たちは学んでいるはずです。シビリアン・コントロール(civilian control:文民による軍隊統制)の重要性は,どんなに強調してもしすぎることはないでしょう。ロシアのような実質的にシビリアン・コントロールのない国になれば,独裁者の意向で,優秀な若者が(自身の希望によるとはいえ)軍人に仕立て上げられ,戦地に送られて殺されたり,生き残っても,戦争犯罪人の汚名を着せられながら処罰されたりするのです。愛国の名の下に,大事な子どもを差し出さなければならない悲劇を繰り返してはなりません。国防をどう考えるかは国民的な議論が必要です。国防を強化するのなら,シビリアン・コントロールの砦となる防衛大臣には,棒読み大臣ではない,きちんとした人をつけることは必須でしょう。自衛隊に対して,是々非々で臨み,ときにはイヤなことも言えるような人がトップにいることが保障されなければ,自衛隊強化論には危なくて乗れません。

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